攻守交代で仲間に笑顔でグラブを手渡す滋賀学園の神村(左)=皇子山
(21日、高校野球滋賀大会 彦根東3―2滋賀学園)
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滋賀大会の3回戦。彦根東に2―3で敗れた滋賀学園の背番号「1」は、高校最後の夏を1球も投げることなく、終えた。
「正直、まだ実感がないというか。受け入れられていません」。神村月光(ひかり)は試合後、はかなげな表情で言葉を絞り出した。
初出場で8強入りした昨春の選抜大会では2年生エースとして躍動した。身長170センチと小柄ながら、140キロ超の直球と抜群の野球センス。今年はさらに飛躍する、はずだった。
歯車が狂ったのは昨春の選抜後。疲れもあって、どこが痛いわけでもないのに球が走らない。夏は甲子園を逃し、秋も他の投手に頼りっぱなし。体重がベストの68キロから5キロも減っていることに気づいたのは、今春の選抜出場を確実にした昨秋の近畿大会後だった。
挽回(ばんかい)しようと必死だった。冬場は寮で夕食を食べた後、一人で15キロのランニングに出た。途中にある約800段の階段を上り、帰ったらまたご飯を茶碗に4、5杯。そうやって体重を戻した。すると今春の選抜を迎える直前、今度は今まで味わったことのない痛みが腰を襲った。
ブルペンで投球すると、走れなくなるほどの痛み。走り込みと階段トレーニングで太ももに筋肉がつきすぎて、体のバランスを崩したのが原因だった。
「気持ちをリセットし、夏こそ万全で迎えたい」。登板なしに終わった選抜後に誓ったが、つきすぎた筋肉を戻すには、数カ月休むしかない。でも、それでは夏に間に合わない。八方ふさがりの状態。野球選手としての将来を考えた山口監督は「無理はさせられない」と決断した。
試合になると、神村はベンチの最前列に立って声を出した。攻守交代の時は、試合に出ている選手に道具や飲み物を手渡す。自分が立つはずだったマウンドで踏ん張る2年生には「緊張しなくていい。思い切って投げてこい」と声をかけた。エースは決して、腐る姿を見せなかった。
「投げられないからと言って、自分が下級生の投手を信じてやれないでどうするんやと。みんなが落ち着いてプレーできるような声かけをしようと思っていました」。投げられないまでも、自らにできることを必死にまっとうした最後の夏。でも、やるせなさはやはり残る。「この背番号1と一緒に、マウンドに上がりたかった」=皇子山(山口史朗)