奈良美智とgrafによる小屋状の作品 (C)Yoshitomo Nara
画面に子供がたたずみ、こちらを見つめる。こんな画風で国際的な評価と人気を得ている美術家・奈良美智(よしとも、57)の30年の足跡と現在形を紹介する大規模個展が、愛知県の豊田市美術館で開催中だ。自身と向き合い続けた、一途な歩みが伝わってくる。
奈良美智さん、30年の足跡 一途な歩みを言葉に
人形や雑貨、大小の本、そして324枚のレコードジャケット。展示は、幼少期から奈良が親しんだ品々で始まる。
青森県弘前市で生まれ、小学生時代は羊や犬と遊び、FEN(米軍の極東放送)で英語の音楽放送を聞きながら、チラシの裏に落書きを描き続けるような子供だったという。中学からレコードを集め出す。
「弘前には美術館もなかったし、レコードのジャケットが画集のようなもので、大学で美術を勉強するようになって、この画家はあのジャケットの人だと再発見した」と明かす。同時に「もし自分の絵に深みがあるのなら」、それは親しんできた本や音楽によると考えている。こうして展示は最初期の作品群へと続いてゆく。1988年にドイツに留学する直前に描いた、腕から炎が出ている少女の絵など、今につながる表現も見せている。
原点を見据えるような展示にしたのは、開催場所も大きい。奈良は、豊田市からほど近い長久手にある愛知県立芸術大と大学院で学んだ。ふるさとのような場所で、「学校を出たあたりから今までのものを並べたくなった」。谷口吉生設計による伸びやかな同館の空間にもひかれていた。絵画や立体、小屋状の作品など100点をゆったり配置。一点一点と向き合うような展示だ。
多くの作品が、大画面の中で子供が一人こちらを向いてたたずむ。奈良は「自分が描いていた時と同じ位置に見る人が立つと、絵と会話できる」と話す。
子供の絵は奈良の自画像的存在…