「組は辞めている」と話す男性=静岡市内
肝細胞がんになった静岡市の無職男性(65)が生活保護を申請したところ、市に却下された。理由は「警察が暴力団と認定している」。男性は「すでに脱退した。きちんと調べて判断してほしい」と訴えるが、市の方針は変わらず、裁判で争いが続いている。
裁判に提出された書類によると、男性ががんと診断されたのは2014年3月。男性はこれをきっかけに組に脱退を申し入れ、県警に組長名の「脱退届出承認書」を提出するとともに同年5月、市に生活保護の開始を申請したという。
ところが、市が県警に照会すると、男性が暴力団員として県警のリストに登録されたままであることがわかった。6月、市は男性の申請を却下した。
暴力団に詳しい桐蔭横浜大の河合幹雄教授(犯罪社会学)によると、警察は脱退の届け出があっても5年程度はリストから外さないことが多いという。「暴力団排除条例ができて以降、経済的に困窮した暴力団員の脱退が相次いでいるが、真偽を確かめるのに警察のマンパワーが足りていない側面もある」
市側も裁判の書類で「(警察の登録抹消に)5年程度を要することが多い」としたうえで、「(男性への)事情聴取と警察からの回答を総合して判断した」などと説明している。
男性は15年6月、市を相手取って却下の取り消しを求めて提訴。男性の代理人を務める間光洋弁護士は「警察の情報だけで判断されてしまうと、本当に脱退しても5年は保護を受けられないことになる。生活保護の無差別・平等の原理に立ち返り、収入や暮らしぶりについて実質的な調査を尽くすべきだ」と訴える。
朝日新聞の取材に対して市は「脱退したかどうかを市が独自に調べるのは困難で、県警の判断を尊重している」と話している。