Akiさんの手がけたヲタトゥー(本人提供)
アニメやマンガ、ゲームなどのキャラクターを題材にしたタトゥー(刺青(いれずみ))が、「ヲタトゥー」として注目を集めている。日本では「怖い」「威圧的」と抵抗感を抱かれがちなタトゥーだが、見方が変わるきっかけになるだろうか。
ヲタトゥーはオタクとタトゥーを掛け合わせた造語。モチーフは美少女などのアニメキャラだ。
20年近く彫り師をしている横浜市のAkiさんは、アニメ好きが高じて2010年ごろからヲタトゥーを彫り始めた。ネットで反響が広がり、ヲタトゥー目当ての客が急増。最近では注文の3~4割を占める。
「お気に入りのキャラと一緒にいたい」「普通のタトゥーに飽きた」。注文に来るのは、サラリーマンや学生、公務員も。男女はほぼ半々で、20~40代が中心だ。Akiさんの作品は海外メディアで紹介され、外国人客も多い。ヲタトゥーの彫り師は米国やメキシコにもいて、なかにはインスタグラムのフォロワーが20万人を超える人もいるという。
ただ、タトゥーにはリスクも伴う。結婚や就職を機に除去を望む人は少なくないが、目立つ傷痕が残ったり多額の手術費用がかかったりするケースもある。除去治療を多く手がける六本木境クリニックの境隆博院長(49)は「レーザーであれ手術であれ除去には大きな痛みが伴うし、成功しても必ず傷痕は残る。はやりだからとヲタトゥーを入れて後から気が変わったらどうするのか」と警告する。
タトゥーへの逆風も強まっている。05年から東京都内で開いてきた国際タトゥー・コンベンション「キング・オブ・タトゥー」は4月で12年の歴史に幕を閉じた。愛好家らが集まってコンテストなどをしてきたが、会場の確保が困難になったという。医師免許を持たずに客にタトゥーを入れたとして、彫り師の摘発も相次ぐ。大阪地裁で先月4日にあった公判で、増田太輝被告(29)は「タトゥーを彫ることは生きがいで私の人生。彫り師としての人生を返してもらえることを信じている」と訴えた。今月27日に判決公判がある。
タトゥーが社会的に認められる環境を整える必要がある――。危機感を強める彫り師や愛好家らは昨年、彫り師に特化した法制度を求める署名約2万3千筆を国会に出した。独自のライセンス制や登録制などが念頭にあるが、法整備へ向けた動きはまだ鈍い。超党派の議員連盟設立を目指す民進党の初鹿明博衆院議員は「『ヤクザの味方と誤解されかねない』と参加をためらう議員も多く、なかなか難しい」と明かす。
関東弁護士会連合会の14年の調査では、刺青を見かけた際の印象(複数回答可)は「不快」が51・1%と最多で、次いで「怖い」が36・6%だった。
「イレズミと日本人」の著者で都留文科大学の山本芳美教授(文化人類学)は「60~70年代にはやった任俠(にんきょう)映画の影響で、イレズミ=ヤクザ者、というイメージが定着した。内風呂が普及して銭湯通いが減り、他人のイレズミを見る機会が少なくなったことも嫌悪感を抱く人が増えた一因では」と指摘。ヲタトゥーについて「現代のタトゥーが様々な文化要素を貪欲(どんよく)に取りいれてきた一つの表れ」とみる。
彫り師のAkiさんは「タトゥーは高い技術を要するアート。ヲタトゥーを通じて『怖い』というイメージが変われば面白い」と話す。(神庭亮介)