天皇、皇后両陛下の写真を手に話をする被災者の熊谷武夫さん=27日午後2時58分、福岡県朝倉市役所杷木支所、金子淳撮影
天皇、皇后両陛下は30日、3泊4日の福岡、大分両県訪問を終える。27日の九州北部豪雨の被災地お見舞いでは、犠牲になった女性と皇后さまをめぐる、思いがけない交流があった。
特集:皇室とっておき
♪いづれの星かわが庭に 落てわ子とはなりにけむ 汝が愛らしき面(おもて)には 天(あま)つひかりの輝やけり
福岡県朝倉市の同市役所杷木(はき)支所から両陛下が被災者らのお見舞いを終えて姿を現すと、見送りに集まったある一団が、歌を口ずさみ始めた。ゆったりとした曲調。皇后さまは天皇陛下を促すように一団に歩み寄り、笑顔で聴き入った。
歌は、皇后さまが作曲した「おもひ子」。皇太子妃時代、詩人で小説家の故・宮崎湖処子(こしょし)の詩をもとに作った曲だ。浩宮さま(皇太子さま)の子守歌として口ずさんだことがきっかけで生まれたといい、子を思う母の気持ちがうたわれている。
支所内で両陛下と対面した熊谷(くまがえ)武夫さん(72)=同県東峰村=の妻で、豪雨災害で亡くなったみな子さん(当時66)は生前、所属していた合唱団でよくこの曲を歌っていた。2001年8月には、合唱団の一員として出演した東京公演で、両陛下の前でこの曲を披露したこともあった。
公演で一団が歌い終えると、陛下は「皇太子が生まれた時、皇后が毎日歌ってました」と語りかけた。
被災当日、川沿いの自宅にいたみな子さんは、職場にいた熊谷さんに「帰ってこん方がいい」と電話で伝えた。その後、家が流され、行方不明になった。対面できたのは約1週間後。警察に顔を見るのを止められ、結婚指輪で確認した。
両陛下と対面時、熊谷さんはかつて妻が両陛下の前で合唱を披露した際の新聞記事を見せた。記事を見た皇后さまは「覚えていますよ」と話した。妻がいつも「立ち姿や物言いがきれいで、すごいオーラのある人」と語っていた皇后さまがそこにいた。妻の思い出を、一つ共有できた気がした。(吉田拓史、多田晃子)