10月の衆院選で有権者に支持を訴えながら走る選挙カー=伊丹市
衆院選が終わって1カ月になります。選挙中は街を歩いていると時折、候補者の名前を連呼する選挙カーを見かけました。以前から思っていました。「そもそも選挙カーで候補者名を繰り返し言うことで、有権者の投票に結びつくのか」。実際に研究した大学教授に話を聞きました。
「集票には効果」論文に
研究を主導したのは、関西学院大学の三浦麻子教授(48)=社会心理学=です。候補者の選挙活動が、有権者からの好感度や投票にどう影響するのかというテーマで論文を書いています。
三浦教授はこう指摘します。「選挙カーによる連呼を聞いても、候補者の好感度は変わりません。ただ、集票には一定の効果があります」
三浦教授ら関学大の調査グループは、2015年の赤穂市長選で立候補した3人のうち、1人の男性候補者に「密着」しました。大学院生がこの候補者の選挙カーに1週間同乗させてもらい、10秒ごとの位置情報に加え、連呼の有無を含む選挙カーの移動や、街頭演説、個人演説会などの活動内容を分単位で記録しました。
また、無作為に選んだ有権者2千人に住所や投票先、各候補者の好感度などを尋ねる調査用紙を送付。約900あった回答から、候補者の選挙活動がどのような影響を与えるのかを分析しました。
その結果、選挙カーが自宅のそばまで来た人が、この候補者に投票した割合は平均の約2倍になったそうです。1キロ以上離れた場所の人の場合は、約6分の1にとどまりました。
名前を連呼している選挙カーが通った場所に自宅が近い人ほど、この候補者に投票した人が多かったことが分かりました。一方で候補者の好感度は、このような差が見られなかったそうです。
「今回のデータを見ると、候補者が有権者に近づけば好感度が上がり、その結果投票に向かわせるとは言えないようです。好感度は上がらないのに、投票にはつながるのが興味深い」と三浦教授。
好感度よりも、有権者が候補者の名前を選挙カーを通じて繰り返し聞くことで、「熱心な政治家だ」と評価し、それが投票行動に結びついたのかもしれない、と推論していました。
膨大なデータを分析して執筆するのに1年以上かかったそうです。その論文は専門誌「社会心理学研究」で発表されました。
論文は日本社会心理学会第19回学会賞(奨励論文賞)を受賞しました。有権者への社会調査と選挙運動の詳細なログ記録を融合させた分析という「革新的な方法論」で挑んだことが評価されました。「実験室ではなく、『生の現場』でデータをとるという方法論を評価していただきました」と三浦教授は振り返ります。
論文について取材が殺到するなど、メディアの反響も大きかったそうです。三浦教授は「選挙カーで連呼することに意味があるのか、と考える人が多いのだと改めて感じました」と話していました。(森田貴之)