男子500メートルを滑り終えた加藤条治に拍手を送る観客ら=遠藤啓生撮影
清水宏保の目
2018年平昌オリンピック
条治(加藤)のことを、「匠(たくみ)の領域に入ってきた」と評価する日が来るなんて。
この日の平昌五輪代表選考会男子500メートルは、自分の二つ前の組で長谷川翼(日本電産サンキョー)が自らが持つリンクレコードを塗り替えた。動揺しなかったのか、聞いた。条治の答えはこうだった。
「翼は後輩なんで、祝福したいぐらいでした。でも、自分のレースがあるので、あえて無視した。今日は良くても悪くても覚悟ができていた」
肝が据わっていて、とても落ち着いていた。
僕が現役時代に一緒に世界と戦っていたころの条治は、精神的なもろさがあった。だから、成績にもむらがあった。世界記録は出したけれど、五輪の金メダルには届いていないのは、そのあたりにある。
今、条治は32歳。この4年はけがもあり、万全な競技生活を送れなかった。30歳を過ぎると、なかなか大事な試合にピークを合わせられないものだ。今日のレースを見て、たいしたものだ、と思った。
今の状態はどのくらいなのか、も聞いた。
「シーズン前半は35秒台ぐらいで、なんとかここで34秒7ぐらいで滑って権利を得て、最後の1カ月で追い込むつもりだった。想定通りにはいけてます」
その言葉通り、伸びしろはまだある。何より、今回の五輪では500メートルは1回しかない。2回の合計の時は体力に不安があったが、1回だけなら、彼の持ち味である爆発力を生かすことができる。何より、彼のようなベテランがいることは、日本チームの心の支えになる。(長野五輪金メダリスト)