AmPm=東京・渋谷、山本倫子撮影
2000年代以降、CD1強時代が幕を下ろし、音楽の楽しみ方は激変した。ダウンロードに定額制配信サービス、動画共有サイト……。人々は、多様化する時代の新しいヒットの回路を生み出そうと奔走する。謎の覆面ユニット「AmPm(アムパム)」も、そんなフロンティアに挑む人たちだ。
無名でも曲を届けられる 「AmPm」の可能性と自信
氏名や年齢などの素性は非公表。常に動物の仮面をかぶり、素顔を表舞台で見せることはない。「聴き手に予断を与えず、私たちの音楽を楽しんでもらいたいから」(AmPm左)。毎回、ボーカルや楽曲制作者なども変えつつ、複数の曲を音楽配信サービス上で発表している。AmPmとは、そんな流動的なユニットの総称。目の前で話す2人は、その音楽プロデューサー的な立場、言うなれば「ブレーン(脳)」だ。
シングル曲「Best Part of Us」で2017年3月デビュー。別れた恋人への思いを、心地よいリズムに乗せ、全編英語の詞で歌い上げるダンスチューンに仕上げている。
この曲が注目を浴びた舞台が、世界的な定額制音楽配信サービス「スポティファイ」。デビュー曲は、12月26日正午現在で993万回の再生数を記録していた。日本人ミュージシャンの中では異例の数字だ。その9割以上が海外でだといい、日本を飛び越え、国外先行でのブレークだった。
始まりは15年。2人は音楽制作会社を創業し、「あくまで新規事業の一つとして、音楽活動をすることを考えた」(同右)。
2人が照準を合わせたのが、スポティファイ上で公表されている「バイラルチャート」だ。SNSなどでシェアされた中からの再生回数がベースのチャート。そこに入るため、「海外の影響力のあるメディアやインフルエンサー(SNS上で影響力を持つ投稿者)に連絡を取り、『この曲がいいと思ったら、拡散してほしい』とプロモーションをかけた」(同左)。その数は200を超えるという。
狙いは当たった。17年4月には米国のバイラルチャートの6位に。1カ月足らずで100万回再生され、大きな話題を呼んだ。
また、スポティファイにはテーマに沿って楽曲を集めたプレイリストが無数にあり、曲のヒットは、人気のプレイリストに取り上げられるかどうかでも大きく左右される。AmPmも、バイラルチャートを足がかりに、有名なプレイリストに次々と取り上げられ、再生回数は雪だるま式に増えていった。
「(バイラルチャートが)我々のような無名のアーティストの突破口になったんです」(同左)。
その後の曲でも自らマーケティングを行う。他のヒット曲のテンポやベース音の強さ、歌に入るまでのイントロの長さなど、楽曲の構造を分析してトレンドを探ったり、世界の主要な為替・株式市場やファッションの流行を数値化して分析したり……。そうやって「自分たちの曲が最も多く聴かれる潮目を見極める」(同右)のだという。
デビューから1年未満にもかかわらず、スポティファイでのヒットを足がかりに、国内でもその認知度と活動は急拡大している。一昨年グラミー賞にノミネートされた日本人プロデューサーstarRoと共同で楽曲制作をしたり、大手レーベルの企画に参加し、ディズニー楽曲をリミックスしたり……。
そうした活動の先に目指しているものとは? 2人はこう語った。
「曲ごとにフィーチャーするボーカルを変えているので、日本にまだまだすてきなミュージシャンがたくさんいることを、AmPmを通じて紹介したい。そんなメディアとして存在できればいいなと思う」(文・河村能宏、写真・山本倫子)