劇団四季のミュージカル「キャッツ」は、都会のゴミ捨て場に生きる24匹の猫を鮮やかに描く。登場するのは、ほぼ猫だけ。冒頭の一瞬、わずか0・1秒で観客を猫の世界に引き込めるかが作品の出来を左右する。人気作品の舞台裏をのぞいた。
時間をめぐる物語「時紀行」
(時紀行:時の余話)積み重ねた公演、9600回超す
時紀行
開演の1時間ほど前、劇団四季の俳優五所(ごしょ)真理子さんは変身の真っただ中にいた。しんと静まりかえった楽屋に、メイク道具を置くかすかな物音だけが響く。
スポンジでおしろいをすくい取り、顔の中央に塗りつける。おでこの両側と頰には、黄色のファンデーション。ミュージカル「キャッツ」の出演者はみな、自分でメイクを施す。ヒトから、ネコへ。鏡と向き合う時間は、役と同化していく大切な儀式でもある。
メイクは、役や俳優の骨格に合わせてあらかじめ決められている。五所さん演じるシラバブは、好奇心旺盛なメスの子猫。「野性的でシャープな大人の猫と違い、目元をくりっと丸く見せるようにしている」と言う。紙コップの水分を一口ふくむ。視線を鏡に戻すと、あごのライン、うなじまで、念入りに色を乗せていった。
「ただいま開場しました。開演45分前です」
楽屋に放送が流れる間も、淡々…