日本代表の合宿の合間に取材に応じるベイカー茉秋
2016年リオデジャネイロ五輪の柔道男子90キロ級金メダリスト、ベイカー茉秋(23)=日本中央競馬会=が新年に再出発を切った。手術した右肩の負傷からようやく復帰。連覇がかかる20年東京五輪に照準を合わせ、心機一転で畳に上がる。
「またイチからのスタート。はい上がっていくしかない」。9日、術後初めて参加した日本代表の合宿で取材に応じた。
五輪の男子90キロ級(前身の86キロ級を含む)で日本勢初の金メダルをつかんでから約1年半。「柔道界のレジェンド(伝説)になりたい」と言い放った五輪前の威勢のよさは影を潜め、謙虚な言葉で今の気持ちを口にした。
昨年4月の全日本選抜体重別選手権で試合中に右肩を脱臼した。リオ五輪前から亜脱臼を繰り返していた箇所が悲鳴を上げた。手術に踏み切った。
手術は成功したが、術後はひどい痛みを味わった。車に乗ると、わずかな振動でも患部が痛むほど。練習も大きく制限され、ほぼ3カ月間走れなかった。
ショックを受けたのは、みるみる筋肉が落ちる己の肉体だった。代名詞の鍛え上げた鋼のような体が変わった。術後2カ月で試しにベンチプレスをやってみた。最高で160キロを持ち上げていたのが、わずか20キロのバーベルが重くて上がらなかった。「積み上げてきたものが、なくなってしまったと思った」。体重も10キロ近く減った。
昨年10月末に柔道の練習を再開。中学生相手の稽古から徐々に負荷を上げ、年末には実業団の選手を相手に乱取りができるようになった。まだ「70~80%」という状態ながら、ベンチプレスも120キロまで戻ってきた。
リオ五輪で頂点に立ち、その後は柔道への意欲が衰えていたという。「21歳で夢をかなえて、燃えるものがなかった。東京五輪で連覇を目指す覚悟がなかなかできなかった」。その矢先の負傷だったが、「どん底を見た」という日々が新たなバネになっている。「柔道ができない時、早く畳に戻りたかった。やっぱり柔道が大好きなんだと気づかされた」。リオ五輪以来の国際試合になるグランドスラム・デュッセルドルフ(2月23~25日)で実戦復帰する。(波戸健一)