広島の鈴木
リハビリに励む広島の鈴木誠也は吹っ切れたような表情だった。昨年8月下旬に右足首を痛めてから、何かつき物が落ちたようだ。
プロ入り5年目の昨季は試練の年だった。初めて4番に座り、重圧に苦しんだ。打率3割、26本塁打、90打点の好成績を残したが、笑顔ではなく、しかめっ面の方が思い出される。凡打に終わってベンチに戻ると、拳で自身の頭を殴りつけた。ビジター球場では敗戦の責任を背負い込み、道具の詰まったバッグを地面に置き、蹴り飛ばして運んでいたこともあった。
激情に身を任せるような姿を見て、肝を冷やした。まだ23歳という若さだから許されるが、チームの雰囲気を壊しかねない。4番の重責を肌で知るベテランの新井からは「我慢、我慢」と諭されていた。
プロ入り後は練習漬け。入団会見のあった夜、ホテルから抜け出して、空き地でバットを振った。プロ1年目は2軍で不振に陥り、500円玉大の円形脱毛症が二つできた。結果が出ないと、悩んできた。
右足の大ケガで昨季終盤を棒に振り、グラウンドに立てる喜びを改めて知った。危うさがつきまとった精神面はたくましくなり、簡単に心が揺れることも少なくなるだろう。
鈴木は「最強の体で帰ってくる」と誓った。心技体がそろえば、入団時に目標として掲げた「トリプルスリー」なんて、軽くクリアしてしまいそうだ。(吉田純哉)