向谷地さん一家。右から2人目が吉田めぐみさん=北海道浦河町、江連麻紀さん撮影
血のつながらない子を里子などとして育てる家族を紹介する写真展「フォスター」(英語で「養育する」)が全国を巡回中だ。一口に里子や養子といっても、その関係や気持ちはみなちがう。でも、それは「普通」の家族だって同じ。家族って何だろう?
こんな関係もありなんだ 写真家がみた里親の素顔
「ああ私の娘じゃないんだと…」 娘を養子に出した女性
長野県伊那市の山里の一軒家。宇津孝子さん(57)は、ここで2歳から14歳まで6人の里子と暮らす。宇津さんの家は、里親が自宅などで6人までの子を預かる「ファミリーホーム」だ。住み込みの職員ら3人を加えたにぎやかな大家族。休日には子どもたちも一緒に米や野菜をつくる。
それぞれに実の親と暮らせない事情があるが、宇津さんは実親とも連絡をとりあい、できる範囲で交流している。昨年の春、ある女の子は保育園の卒園式で、母親が胸につけるコサージュをつくった。卒園式には実の母親と宇津さんが出席。女の子はこう言った。「私の場合は、ふたつつくっておけばよかったな。お母さんが2人いるから」
宇津さんは、「血がつながっていなくても家族になれる。ちょっとちがう形でも、それでいい」と話す。
写真展は、川崎市の写真家・江連(えづれ)麻紀さん(38)、家族社会学者の白井千晶・静岡大教授(47)らが企画した。
江連さんは何度も宇津家を訪問。飼っているヤギも連れてみんなで田んぼへ向かう様子などを撮影した。
「出産の写真を撮ってきたから、生まれた親の元を離れた子どもたちの生き方が気になっていた」という。「人生のどうしようもないことを持ち寄って弱さを補い合いながら、ケンカとかご飯とか何げない毎日を過ごすことで、生きやすさに向かっていくのかな」
里子は原則18歳まで、延長しても20歳までだが、その後もつながりが残ることがある。今年初め、江連さんたちは北海道浦河町で、元里子の家族を撮影した。
精神疾患のある人が共同で生活や仕事をする「べてるの家」の創設の中心になった向谷地生良(むかいやちいくよし)さん(62)と妻の悦子さん(58)。病気の母と暮らせなくなった吉田めぐみさん(32)を中学3年の時に里子にし、家族の一員として大切に育てた。向谷地家には大勢が出入りする。夫婦・子どもたちという狭い意味の「家族」と、それ以外の人たちの区別がゆるやかで、「家族の垣根が低い家」(生良さん)だ。実子たちもよく近所の家にご飯を食べに行っていた。特別扱いされないですむ環境が、めぐみさんには「風通しがよかった」。
白井さんは「里子家族の生々しいごちゃまぜの姿を知れば、『隣の家』みたいに感じてもらえるのでは。お互いもっと肩の力を抜き、助け合って子育てできるはず」と話す。
これまでに6道都県で撮影した。5日に都内であったイベントでは、写真に写った親子が里親になった理由や子どもの立場で感じていることを紹介した。子どもを養子に出した女性も登壇し、どんな気持ちで養親に託したのかを語った。
現在、企画メンバーの斎藤麻紀子さん(49)が運営する横浜市西区のNPO「Umiのいえ」(045・324・8737、展示時間は電話で問い合わせを)で展示中(4月4日まで)。その後熊本市などを巡回。家族自ら撮影した写真も募集中だ。サイトは
http://foster-photo.jp/
。(高重治香、岡林佐和)