男子自由形400メートル予選に出場し、泳ぎ終えて電光掲示板のタイムを見る萩野公介=北村玲奈撮影
「今は全然違う泳ぎができる」。競泳のリオデジャネイロ五輪男子400メートル個人メドレー金メダルの萩野公介(ブリヂストン)は、そう言う。昨年は泳ぎが安定せずに苦しみ続けた。3日に開幕した日本選手権最初の決勝種目、男子400メートル自由形で、完全復活を狙う。
2日に東京・辰巳国際水泳場であった前日練習。萩野は練習時間の9割5分を自由形のフォームの確認に割いた。「今はどれくらいのタイムが出るのか楽しみ。小学生のような気持ちで臨んでいる」。充実した表情で言った。
骨折した右ひじを2016年9月に手術し、悩み続けたのが得意な自由形だった。
1年前、手術後で冬場の泳ぎ込みが十分にできず、水をかいた腕を再び水に戻すときに右腕がぶれた。指導する東洋大の平井伯昌監督が指摘して一時的に直っても、また首をかしげ出し、変になる。その繰り返しだった。
昨夏の世界選手権(ブダペスト)では、800メートルリレーで5位に終わった責任を背負い込み、サブプールで崩れ落ちて号泣した。「試合が近づくと、どうしたのっていうくらいぐちゃぐちゃになる。精神的な問題もあるのかな」。平井監督は世界選手権後、そう語っていた。
転機は昨年の「武者修行」だった。9~11月に2回にわたり、平井監督から離れて米国に渡った。「しばらく大会には出なくていいから、いろいろなことを経験してこい」。平井監督にそう送り出された。
男子平泳ぎで五輪2大会連続2冠の北島康介さんの紹介で、現地のリハビリ施設を見学。ひじの周りの筋肉を鍛えたり、競泳男子で五輪金メダル23個のマイケル・フェルプス(米)を育てたコーチのもとでトレーニングをしたりもした。だが、一番は「新しい人と出会って、いろんなことを経験して、練習では気づけなかった部分がすごくある」という。
平井監督は、武者修行の狙いについて「金メダルを狙って4年間同じ作業をすれば、(金メダルを)取ることはできるかもしれない。でも、それじゃつまらない。人として大きくなって、殻を破って欲しいと思った」と語る。帰国後の東京スイミングセンターの招待試合では、「おぼれかけた」と言いながら、最下位でもがむしゃらに泳ぐ萩野の姿があった。
年末年始に体調を崩し、1カ月練習できなかった。だが、3月の高地合宿で、平井監督は萩野の泳ぎに手応えを感じた。「自由形がね、何かわかんないけど、良くなったんですよ。水泳をあまり難しく考えなくなったのかな」
昨年の日本選手権初日の400メートル個人メドレーで、萩野はライバルの瀬戸大也(ANA)に0秒01差で敗れ、終始波に乗れないまま終わった。だからこそ、今年はこう誓う。「初日の400メートル自由形で良い泳ぎをして、自分自身に波をもってこられるようにしたい」(照屋健)