家族で行った奈良公園で。この頃、心の異変を感じるようになっていた=2010年3月、本人提供
産後うつ:1
「これは明らかにおかしい」
大阪府八尾市の看護師大井愛美(おおいあみ)さん(35)は、自分の心の異変をはっきりと自覚した。次男(8)の出産から1カ月が過ぎた2010年2月のことだった。
育休中だったため、自宅でずっと当時2歳だった長男(10)と向き合っていた。まだまだ手が掛かる時期だということは頭ではわかっていた。でも、ご飯を食べてくれず、寝る時間になっても寝てくれない。そんな息子を見ていると、まるで針が振り切れたようにイライラが募った。
異変はその2年前、長男を出産した時にも起きた。ちょうど産後1カ月ごろ、実家に帰って泊まっていたとき、夜中に長男のおむつを替えた。たまたま通りかかった実父がつぶやいた。
「またおむつを替えているのか」
「私がいけないっていうの!」
激しい口調で食ってかかった。父に他意がないのは頭ではわかっていた。しかし、どうしても抑えきれなかった。涙があふれ、止まらなくなった。
その時は、それで済んだ。育児の忙しさの中で、気持ちの乱れは落ち着いていった。だが、次男を産んだ今回は、自分をコントロールできない異常な感じが、日に日にひどくなっていった。
1カ月後、とうとう長男と目を合わせられなくなり、一緒にいるのが苦痛になった。夫(36)が帰宅すると2人の子どもを押しつけるように預けて、自転車であてもなく出かけた。とにかく独りになりたかった。
何事もきちんとやらなければ気が済まない「完璧主義」。自分の性格は、何となく理解していた。産休と育休で仕事をしていない間は、せめて家事はこなさなければいけない。なのに、長男のしつけすら満足にできない。そんな自分が嫌になった。
ふと不安になった。これは病院に行くべきではないか。そう思う一方で、踏み切れない理由もあった。長男と同じように、次男も母乳で育てたい。診療を受ければ、薬をのむことになり、母乳で育てられなくなるかも――。気になって、病院に足が向かなかった。(田之畑仁)