ワシントンで27日、トランプ米大統領とメルケル独首相の共同記者会見の会場に到着したボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)=ロイター
トランプ米政権で国家安全保障の政策を取り仕切るボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は29日、米テレビ番組に出演し、北朝鮮の核廃棄について「リビアの事例が示すように、米国や他国の査察官による検証が非常に大事」と述べ、2003年に核開発を放棄した「リビア方式」を適用させる考えを示した。
ボルトン氏はこの日、FOXニュースとCBSテレビの討論番組に出演し、「トランプ政権が最大限の圧力を北朝鮮にかけ続けたからこそ、北朝鮮との首脳会談が実現することになった」と主張。「圧力を緩めることは交渉を簡単にすることはなく、かえって難しくする」と述べ、北朝鮮との交渉の間も圧力をかけ続ける考えを強調した。
無条件査察の受け入れ念頭
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が咸鏡北道豊渓里(ハムギョンブクトプンゲリ)の核実験場を5月中に廃棄し、米韓の専門家やメディアに公開する考えを示したことについては「我々が見たいのは、真の実施であり、プロパガンダではない。今のところ言葉しか見ていない」と語った。
北朝鮮による核兵器や核燃料、弾道ミサイルの廃棄をどのような方法で確実にするのか問われると、リビアが大量破壊兵器の開発計画放棄を約束し、国際機関による無条件の査察を受け入れた後、米国が経済制裁を解除した「リビア方式が我々の考え方にはある」と語った。
その上で、「リビアのカダフィ政権が全ての核関連施設で、米国と英国の査察を受け入れたことで、リビアに対する疑念を払拭(ふっしょく)することになった」と主張。北朝鮮についても全ての核計画の提示に加え、米国や国際機関による完全な検証の受け入れが必要だと指摘。「完全」かつ「検証可能」で「不可逆的」な核兵器の廃棄を行わない限り、譲歩しないという米国の姿勢を改めて強調した。
北朝鮮、リビアを反面教師に
ボルトン氏は07年、朝日新聞のインタビューで「リビアでは、あらゆる施設を英情報機関と米中央情報局(CIA)が事前に検証した上で合意に達した」と指摘。北朝鮮の核問題についても「検証は合意の後にくるものではなく、合意の核心部分でなければならない」と主張していた。
ただし、北朝鮮は段階的に非核化しながら、経済制裁緩和や体制保証を約束させる戦略とみられる。リビアについては、核開発計画を放棄した後、「アラブの春」を機に欧米の軍事介入を招いて崩壊したカダフィ政権を反面教師と見ており、「リビア方式」を受け入れない可能性も高い。
「北朝鮮は行程作る用意ある」
一方、ポンペオ米国務長官は29日のABCテレビのインタビューで、3月末から4月初旬にかけて極秘訪朝した際、「金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が非核化の実現に向けた行程を作る用意がある意向を示した」と述べた。
ポンペオ氏は会談について「良い対話を行うことができた。我々は深刻な問題について話し合った」と振り返った。また、北朝鮮に拘束中の平壌科学技術大学に勤務していたキム・ハクソン氏ら米国人3人の解放についても協議したという。
ただし、ポンペオ氏は米国が北朝鮮に対して「完全かつ不可逆的で検証可能な非核化」を求めている点を改めて強調し、「その目標が実現されるまで、我々が圧力路線を続けることをトランプ大統領は明確に示している」と述べた。(ワシントン=土佐茂生、園田耕司)
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〈リビアの核開発放棄〉 リビアのカダフィ政権は米英との秘密交渉を経て03年12月、核兵器など大量破壊兵器開発計画を認め、即時かつ無条件に放棄すると表明。国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れ、核兵器開発に関する機材や文書を米国に引き渡した。米国は制裁を解除し、約半年後に国交を回復。核放棄の実行後、制裁解除などの見返りを与える先例となった。ボルトン氏は当時、軍備管理問題担当国務次官として携わった。