会食スペースで食事をとる人たち=兵庫県豊岡市城崎町の三木屋
出迎えから、料理の上げ下げ、布団敷き、見送りまで、同じ仲居さんがもてなす――。そんな老舗旅館の接客スタイルが従業員の働き方改革で変わりつつある。外国人客の増加で人手不足は深刻。部屋食サービスの取りやめや、接客係のシフト勤務を導入する旅館も増えてきた。
【特集】働き方・就活
小説「城の崎にて」を書いた文豪・志賀直哉が定宿にした創業300年の旅館三木屋(兵庫県豊岡市)では、仲居の職種がなくなった。
1927年築の木造3階建てでエレベーターのない本館は、現行の建築基準法に沿わないため大規模改修できない一方で、仲居が高齢化し、厨房(ちゅうぼう)と客室の往復も難しくなった。このため5年前に改装して1階に会食スペースを設け、部屋食の提供をやめた。一風呂浴びた客はここで食事する。仲居だった従業員は裏方に。若い従業員が数人で料理を運び、料理に合う日本酒を薦める。
旅館74軒が加盟する城崎温泉旅館協同組合の労働厚生委員会によると、現在会食スペースで食事を提供している旅館は数軒のみ。「外国人観光客の多くは伝統的な温泉旅館スタイルを体験したがる」と部屋食にこだわる旅館も多い。
そんななかで、三木屋の稼働率は改装前の2倍になった。食事する様子を見ながら温かい料理をタイミングよく出せるなど、仲居がいたときよりきめ細かなサービスができるようになったという。世界有数の宿泊予約サイト、ブッキング・ドットコムでは「スタッフのサービスには驚き。風呂、ゆかた、夕食は素晴らしい」「接客、食事、宿の設備など最高でした」などと口コミで評価されている。
三木屋では正月や連休などの繁忙期の後に数日休館し、従業員がまとまった休みを取れるようにもした。10代目の片岡大介さん(36)は「仲居制度をやめて顧客が離れる不安もあったが杞憂(きゆう)だった。従業員の待遇とサービスの向上は両立できる」と話す。
日本商工会議所の昨年の調査で…