誉の小栗大誠君=2018年6月24日、福井県敦賀市総合運動公園野球場
「バシッ」「バシッ」。校舎の中庭で、タオルを使ったシャドーピッチングの音が響く。鋭く空気を切る音に、「ファサッ」と弱い音が混じる。
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「腕の振りが遅いんです」と時習館(東愛知)の高井瑛烈(えいれつ)君(3年)。投手になったのはわずか1年4カ月前。球速は無いが、緩急を生かした投球で、地方大会に第1回から連続出場する伝統校の「背番号10」を背負う。
入学時は野手。同級生は、硬式野球経験者が多かった。軟式出身で、足も遅く、肩も弱い自分が見劣りし、「試合に出るのは無理かな」と思っていた。
転機は1年の夏。「投手をやってみないか」。林哲也監督(45)に持ちかけられた。左利きで、手先の器用さを見込まれての提案だったが、即答できなかった。投手はまったくの未経験。責任も重い。ただ、野手のままでレギュラーになれるのか。数カ月間、迷った末、勝負に出た。
昨年2月、打撃投手としてデビュー。最初は上手投げだったが、試してみたサイドスローがはまった。
練習を重ね、昨春の地区予選、昨夏の愛知大会でベンチ入り。ただ、登板機会は1度も無かった。
大会では、140キロ台の速球が武器の三浦大輝君(3年)が活躍、「ただベンチに入っているだけ」の自分との差を感じ、奮起した。他校にサイドスローの投手がいれば、試合に行ってフォームを研究、球のスピードがない分、制球や緩急に磨きをかけた。
最上級生で迎えた6月、高井君は、全三河大会の4試合中3試合に登板、準優勝に貢献した。
新たな決断で手にしたポジション。「入学したころは今の自分を全く想像できなかった。最後の夏、自分の求めてきた投球をして勝利につなげたい」
「腕振れない」悩んで決断
「どんなフォームが自分に合っているのか」。誉(ほまれ)(西愛知)の小栗大誠君(3年)は悩んでいた。「このままじゃ試合に出られない」
身長190センチ超の恵まれた体格を生かし、くせのあるフォームながら直球で押す投球が持ち味だった。2年春には強豪私学の「背番号1」を手にした。
さらに高みを目指そうと、昨夏過ぎから、矢幡真也監督(45)と一緒に、「きれいな上手投げ」へのフォーム改造に取り組んだ。くせの無い投球動作にすることで、球速も制球も上がると見込んだ。
ところが、うまくいかない。かえって制球が定まらず、直球の勢いもなくなった。「思ったように腕が振れない」。焦りも募った。
試行錯誤を繰り返し、半年が過ぎた3月のある日。練習中のブルペンで矢幡監督からかけられた一言が小栗君を救った。「投げやすいフォームで投げてみろ」。苦しむ姿に、「窮屈そうだった。自由に投げさせた方がよいと思った」と考えた。
長身ゆえに、角度をつけようと、真上から投げ下ろそうとしていた。腕を少し下げると、腕がスムーズに振れた。見た目はより癖の強いフォームになったが、球がリリース直前まで体に隠れ、打者はタイミングをとりにくくなった。元々の高さに横の角度も加わり、打ちづらさが増した。「これはいけるかも」と手応えを感じた。
新たなフォームに磨きをかけると、変化球の制球やキレも良くなっていった。4~5月の県大会では、白石祐人君(3年)との二枚看板で、チームを初優勝に導き、県内屈指の変則左腕と呼ばれるまでになった。
悩み、もがいて手にした武器。「やっとの思いでつかんだフォーム。だからこそ、今は抑えられる自信はある」