名古屋・栄の老舗百貨店、丸栄が30日、閉店した。消費不振と競争激化のあおりで、バブル崩壊後に業績が低迷。会社設立から75年、前身の呉服店「十一屋」の創業から数えると403年の歴史に幕を下ろした。
午後7時過ぎ、浜島吉充社長が「長い歳月、地域の皆様の応援があって続けてこられた。ご支援頂きありがとうございました」とあいさつすると、詰めかけた客から拍手があがった。
十一屋は江戸時代初めの1615年に創業した。1943年に同業の三星と合併。「栄地区で丸く栄える」という意味を込めて「丸栄」に社名を改めた。松坂屋、名鉄百貨店、名古屋三越と合わせて「4M」と呼ばれてきた。
それだけに、最終日は名残を惜しむ客でにぎわった。愛知県愛西市の工藤洋子さん(80)は「庶民的で気に入り、50年間利用していた。これからどこで買い物をすればいいのか」。「肉の杉本」で50年以上働いてきた杉本日左江さん(77)のもとにも、なじみ客がひっきりなしに訪れた。自慢の松阪牛は数日前に売り切れ。30日は売る物がほとんど無かったが、一人ひとりに感謝の言葉を伝えた。閉店後、杉本さんは「閉まったシャッターが開くことがないと思うと寂しい。亡くなった主人に無事終わったと伝えたい」。
かつての職場に別れを告げにきた元社員もいた。吉田ふみよさん(77)=愛知県長久手市=がその一人。入社間もない1959年秋、伊勢湾台風の被災者に向けて救援物資を袋詰めした。エスカレーターやエレベーターの案内役も務めた。ごった返す店内を見て「こんなに丸栄が愛されていると知り、うれしい。ここで働けて幸せだった」と目をうるませた。
丸栄と出会って人生が変わったのが、名古屋市出身のモデル、佐藤かよさん(29)だ。18歳の頃、広告に起用された。初めての大きな仕事。26日の取材に「モデルの仕事をよく分かっていない私にチャンスと、人の目に触れる機会を与えてくれた」と話した。
男性の体で生まれ、女性として生きたいと悩んできた佐藤さんにとって、ギャル文化の発信地だった丸栄は憧れの場所だった。中学2年で女性として生きることを決意し、丸栄に出かけた。見ることしかできなかった若い女性のファッションフロアで、ワンピースなどを買った。「やっと買えるという解放感が大きかった」。閉店は寂しいが、期待もある。「名古屋の若い女の子のために、新しい出会いの場を作ってくれるのではないかな。そういう楽しみがあります」
丸栄は会社が存続し、外商も営業を続ける。ただ、1953年築の建物は老朽化しており、9月から取り壊される予定だ。(斉藤明美、山下奈緒子)