報道陣に囲まれる中、長野さんに丸刈りにしてもらう東筑の松山智乃助主将=北九州市八幡西区
第90回記念選抜高校野球大会に出場する東筑(北九州市八幡西区)の近くにあり、歴代の球児が通った「きよみ理容館」が3月末で閉店する。店主の長野順子さん(69)は、甲子園への切符をつかんだ球児に最後の散髪をしながら、「一つずつ慌てず勝ち上がって」と声援を送った。
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「来るの待ってたんよ。調子はいいの?」。14日夜、練習を終えて店を訪れたエースの石田旭昇投手(3年)の髪をバリカンで整えながら、長野さんが話しかけた。
選抜出場が決まって注目が集まり、報道陣が囲む中での緊張の散髪。長野さんの問いかけに、「だいぶ良くなってきました」といつもの笑顔が戻った。一緒に訪れた松山智乃助主将(同)の髪も丸刈りにし、「はい、がんばって」とハイタッチをした。
長野さんと球児の交流が始まったのは1987年。客の生徒が当時の野球部の主将を店に連れてきた。その年、東筑は9年ぶりに夏の甲子園出場を決め、長野さんは3年生たちの頭を丸刈りにして送り出した。
部員たちは店の前を通るときにはドアを開けてあいさつするのが慣例になり、甲子園出場が決まるたびに無料で散髪をした。長野さんは「東筑の子どもたちは私にとって宝物です」と語る。だが店は区画整理事業のため、今月末で閉店する。「年齢も考えて、ここで一区切り」と、移転はしないつもりだ。
選抜大会への出場が決まった1月26日も球児たちが店を訪れた。いつもは片手のハイタッチを、両手で繰り返して大喜び。閉店を前にした夏春連続出場に、「最後に神様がごほうびをくれた」と話す。
「もう髪を切ってあげられないのは寂しいけど、色んな子に出会ってパワーをもらい、幸せだった」と長野さん。昨夏は野球部OBと甲子園で観戦した。店じまいの作業があるため、この春は足を運べるかわからないという。
石田投手は「プレッシャーにならないようにと、いつも温かい言葉をかけてくれた。夏に一緒に歌えなかった校歌を歌いたい」と話した。(新屋絵理)