大会第8日の21日、2球場で3回戦計4試合があり、昨夏の覇者・おかやま山陽が玉島商に敗れた。創志学園と倉敷商はコールド勝ちで準々決勝進出を決めた。22日は残りの3回戦計4試合があり、8強が出そろう。
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(玉島商5-1おかやま山陽)
玉島商・近江瞭斗捕手
「真っすぐ一本で来いよ。思い切り振るから」
九回1死。玉島商の捕手・近江(ちかえ)瞭斗君(3年)は、打席に入ったおかやま山陽の4番・井元将也君(同)に言われた。倉敷市立真備東中の同級生。「わかった」と静かに返した。
互いにチームの4番で、前日に「しっかり打ちあおう」と約束していた。近江君は一回の先制打を含む3安打。対する井元君はここまで3打席凡退。だが最後まで気が抜けなかった。
カウント1―1からの3球目。その直球を強振され、打球が一塁ベンチ方向へ高く上がった。風に戻され、体勢を崩されながら捕球して2死に。あんどの表情でエース石崎佳以君(同)にボールを渡した。
堅守でリズムをつくって攻撃につなげるチームの要だ。立ち上がり、石崎君の球が上ずった。一回の守備が終わるとすぐベンチで言った。「ワンバンでいい。俺にたたきつけていいから」。二回が終わった後も繰り返した。
走者を出せば、積極的にマウンドに駆けつけた。「悪い流れを切りたいから」。九回2死から一、二塁とされた時も、スタンスは変わらなかった。「本塁打でも大丈夫」。そう言って緊張を和らげた。最後の打者が右飛になると雄たけびをあげた。
西日本豪雨で、真備地区の自宅の1階が床上浸水になった。野球をやっていいのか悩んだが「真備を勇気づけたい」と臨んだ大会だ。次からは友の思いも背負う。「一つ一つ勝って、それが甲子園につながればいい」(大坂尚子)
おかやま山陽・井元将也主将
九回表1死。4点を追うおかやま山陽は4番で主将の井元将也君(3年)に打席が回った。「自分が逆転のチャンスをつかむ」
3球目、直球が外角高めに浮いた。勢いよく振り抜いたが打球は高く上がり捕手のミットに。後続が敵失や中前安打で2死一、二塁の好機をつくったが、あと一打が出ず、ゲームセット。試合後、井元君は玉島商の捕手・近江瞭斗君(同)に歩み寄った。「俺たちの分までがんばれよ」。井元君は近江君の肩を抱きながら、そう声をかけた。
2人は小学校時代はバッテリーを組んだこともある。対戦日前日にはツイッターで「明日の試合楽しもうな」と連絡を取り合った。
西日本豪雨で、2人とも自宅が被災した。井元君の自宅は床上の約2メートルの位置まで水につかり、1階部分はほぼ水没。もう一度住むにはリフォームする必要がある。苦しい状況の中、井元君は「自分の家だけが被害を受けているわけじゃない。自分だけが落ち込んでても仕方ない。自分が今できることは野球を一生懸命プレーすること」と心に決め、この大会に臨んだ。
試合後、井元君は「全国で勝つことが目標だったので最後は悔いが残ります。でもこんな状況で野球をさせてくれたことに、感謝しかない」と涙を流しつつ、近江君にこうエールを送った。「あいつがもっている力を出し切って、甲子園に行って欲しい」。真備を野球で元気づける、その思いはつないだ。(沢田紫門)