高校野球の春季岡山県大会で28日、昨夏の第100回全国選手権で岡山代表だった創志学園が2回戦に登場。岡山東商と延長十二回を戦い、5―1で競り勝った。高校日本代表の第1次候補に選ばれた右腕の西純矢(3年)は登板しなかった。
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背番号「1」の西は、左手にファーストミットをはめていた。一塁の定位置からマウンドの背番号「10」に声をかける。「いつでもいけるから、おもいきり投げろ」。本音を押し殺しながら、仲間を鼓舞しつづけた。
昨夏の甲子園1回戦で創成館(長崎)から16三振を奪った。最速153キロ。絶対的なエースだ。しかし、県大会初戦のこの日、長沢宏行監督が先発させたのは草加勝(3年)だった。最速は146キロの本格派右腕だ。「夏は、西と二枚看板でいかないと勝てない」。この春の大会で、自信をつけさせようと考えていた。
打線が相手左腕を打ちあぐね、1―1のまま終盤へ。すると、徐々に西がそわそわし始めた。
七回1死、味方の失策で走者が出ると、長沢監督のいるベンチをじっと見つめた。「アピールでした」。だが監督は動かない。
西は、良くも悪くも感情に素直だ。「負けたくない」「投げて抑えたい」という気持ちを隠せない。昨夏の甲子園で三振をとるたびに派手なガッツポーズを見せたのも、敗れた昨秋の中国大会準決勝で自らの失策に怒って崩れたのも、そんな性格の表れだ。
この日も感情が表に出る。九回2死二塁の守備。一塁線に飛んだ鋭いライナーを横っ跳びで好捕した。十回2死二塁の打席では遊ゴロを放ち、一塁ベースに手から突っ込んだ。「投手なので、チームとしてヘッドスライディングをやったらダメなんですけど……」。勝ちたい気持ちが前に出た。
登板したい気持ちが、はっきり見えた。走者が出るたびに、ミットを外してベンチを見る。十一回の攻撃中には、アピールのため、キャッチボールをはじめたが、監督は応じなかった。
そんなエースとベンチのせめぎ合いをよそに、草加は快投した。八回からは無安打投球。四球で走者を出しても、粘る。181センチの長身で、真上から投げ下ろすような直球には、西にはない角度があった。「今までは西にばかり頼っていた。でも、ライバルなので」。味方の援護があるまで耐えた。
西が言う。「自分一人じゃ、しんどい部分もある。だから、今日は草加の投球は自分もうれしかったし、頼もしかった」。ただ、その顔には苦笑いが浮かぶ。チームの方針は理解しているが、本能は簡単に隠せないからだ。次戦はどうしたいか? 「投げたいです」。西にとっては、ちょっともどかしい春になりそうだ。(小俣勇貴)