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エースめざした球児選んだ裏方 友の一言で迷い乗り越え

「選手コーチ、やろうと思うんやけど」


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岡山県立玉島商の江木智也君(3年)は今春、捕手の吉岡卓哉君(同)に打ち明けた。選手をあきらめる重い決断を、小学生のころから知るチームメートに伝えた。吉岡君は一緒にプレーできなくなる寂しさはグッとこらえ、「頼むぞ」と応じた。


行成貴由監督(53)に「一緒にやろう」と熱心に誘われ、エースをめざして入学した江木君。直後、アクシデントが起きた。投球練習中に、利き腕の右腕がけいれんを始め、動かない。神経系の異常と診断された。


「ならば打撃で」と強打の内野手へ目標を切り替えたが、続かなかった。1年の秋、痛みが再発。握力はわずか3キロまで落ち、ペンを持つにも箸を持つにも、左手を使わざるを得なくなった。


心にぽっかり穴が開き、練習から足が遠のいていった。復帰するつもりでリハビリには通ったが、幾度も「もう野球をやめよう」と心が揺らいだ。


「一緒に野球したいんじゃ。頑張ってくれ」


吉岡君は江木君をそう励まし、待ち続けた。高校で一気に打ち解け、休日はカラオケを楽しんだり、映画に行ったり。仲間が野球から離れようとしているのを見るのはつらかった。


江木君が、練習の補助や下級生の指導を担う選手コーチを部長らから打診されたのは、そんなときだ。「レギュラーを期待する親に申し訳ない」などと考えてしまい、すぐには受け入れられなかった。


吹っ切れたのは、吉岡君の「頼むぞ」があったから。「選手だろうがコーチだろうが、仲間に変わりない。江木と戦いたい」と吉岡君は言う。


5月22日。3年生全員が出場した笠岡商との練習試合が、江木君の「引退試合」となった。最終回の守り。2死になって江木君がマウンドへ上った。背番号は「1」。


受ける捕手は吉岡君。「お前に受けて欲しい」と江木君に望まれ、「忘れられない日にさせてあげたい」と監督に直訴した。


「腕がちぎれてもいい。思い切り投げろ」。そう声を張り上げる吉岡君に、江木君は力いっぱい投げ込んだ。4球とも直球。最後は内野ゴロで締めた。「めちゃくちゃ気持ちが乗っていた」と吉岡君はたたえた。


もうマウンドに悔いはない。選手コーチになって江木君は気づいた。「裏方」がいてこそ、主力は力を出し切れる。選手じゃなくても戦える――。13日、最後の夏の幕が開く。(華野優気)


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