自由律の句を編み続けた漂泊の俳人種田山頭火(1882~1940)に通じる生き方を体現する人に贈る「種田山頭火賞」を、老舗出版社の春陽堂書店が13日、創設した。出版不況が続く中、書籍文化復興への願いを込めて、第1回受賞者には舞踏家で俳優の麿赤兒さん(75)を選んだ。 春陽堂書店は創業140年。1889年創刊の「新小説」で尾崎紅葉「金色夜叉」や泉鏡花「高野聖」、夏目漱石「草枕」を世に出し、戦後は江戸川乱歩や岡本綺堂の大衆小説を刊行。1972年発行の「定本 山頭火全集」は、あまり知られていなかった山頭火再評価の契機となった。 「まっすぐな道でさみしい」「どうしようもないわたしが歩いてゐる」――。肉親との別れや家業破綻(はたん)に苦しむ山頭火は42歳で出家し、酒に溺れ友に金を無心し57歳で急逝するまで「愚」を自認する生き方を続けた。全てを捨て、身一つで編んだ句は根強い人気で「昭和の芭蕉」とも呼ばれ、海外でも翻訳される。 文芸作品の売れ行きが厳しい今、「走り続ける現代人とは対極のような偉大な凡人・山頭火の名を冠した賞を文学再興の起爆剤に」と、春陽堂書店編集顧問の岡崎成美さん(61)。「読む者が己を見いだし、共感する句を今に残した山頭火の生き方に光を当て、疲弊した心を受けとめ、空虚を満たす文学の力を思い出してほしい」 審査員は作家の嵐山光三郎さん(76)と国文学者の林望さん(69)。「昔は小さいが特色ある出版社がいっぱいあったが、どんどん減った。それでも頑張る出版社へのエールも込めて取り組んだ」と嵐山さん。林さんは「序列や権威とは無縁に己の道を貫くことで、独自の立ち位置を築いた人をたたえる賞」と話す。 受賞資格は「およそ1年以内に本を出版していること」。幼くして父を失い母とも生き別れた麿さんは、極限まで追い込んだ心身から生み出す独自の舞踏で国内外を巡り昨年、半生記を刊行した。「道徳や規範をとっぱらった丸裸の人間のありようを追求する点で山頭火に通ずる」と林さん。 麿さんは「俺にはまだ守るものがあり、山頭火のように何もかもは捨てられない。こりゃ賞じゃなく、罰だなあ」と苦笑する。「追いつけぬ山頭火の背中を見つめて己の創造を尽くせよという、十字架を背負って、生きますか」。受賞を機に「山頭火」が題材の新作舞踏を創作し、主宰する「大駱駝(らくだ)艦」の公演で来秋、発表する予定だ。(西本ゆか) |
種田山頭火賞、文芸復興の願い込め創設 麿赤兒さん受賞
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