決戦の最終局、張挑戦者の家族は都内の自宅の囲碁サイトで、夫の、パパの戦いを見守った。妻で棋士の小林泉美六段(41)がつづる家族の思いは――。
貫いた早打ち「恐怖との戦い」張栩名人、逆転勝利の裏に
対局後、夫からかかってきた電話でお祝いとねぎらいの言葉をかけ、感動した手を伝えました。
対局は自宅のパソコンでAI(人工知能)に評価させながら見ていました。白の夫が有利と評価されている時も、勝ちきるのは大変だと感じていました。ただ、このような局面において、張栩が力を発揮する場面を今までに何度も見ていたので、きっとうまく打ってくれると信じていました。
その信じる気持ちは、私より娘たちの方が断然大きかったことが今回判明しました。家で中1、小3の2人の娘と一緒に観戦し、応援していたのですが、私が一番心配していて、信頼度が低いとたびたび娘に諭されました。
長女は、普段から布石など夫と一緒に研究している時間が長いので、序盤から「これは、パパが研究している打ち方」、難しい中終盤も「パパなら大丈夫」と、常に絶対的な信頼をおいて観戦していました。
全局を通じて難しい対局ばかりでしたが、娘たちとタイトル戦を応援できるというのは初めてのことで、最高の幸せを感じました。
対局の翌日、遠征から戻る夫を都内の駅まで迎えに行きました。何を話したか、よく覚えていないのですが、特別な思いで帰路につきました。
この10年間、人生において張栩が打ってきた手が報われたというか、つながっているということを感じられる名人戦でした。