厚生労働省が発表した今春(2018年4月時点)の全国の待機児童数は、前年比で4年ぶりに減少し、10年ぶりに2万人を下回りました。各地で施設整備が進んだためとされ、「ゼロ」だった自治体も1306と、全体の75%に。厳しい「保活」から解放される日も近そうに思えますが、保護者からは、ある不満の声が上がっています。その背景には「数字のカラクリ」がありました。
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「うちの子は認可保育園に入れていないのに……」。札幌市に住む女性は首をかしげます。
この春、長男(3)の保活に奔走しましたが、結果はすべて落選でした。にもかかわらず、9月に厚生労働省が公表した札幌市の待機児童数は「0」でした。女性は「私と子どもが無視されている気がする」と憤ります。
そもそも女性の保活の始まりは、16年の秋にさかのぼります。1歳になった長男を預けたいと、自宅から約20分ほどで登園できる認可園を3つ希望して申し込みましたが、入園できませんでした。翌年、保育施設を2つ加え、5園に増やして申し込みましたが、またも落選。現在はたまたま空きを見つけた認可外保育園を利用していますが、遠いため、片道約1時間をかけて車で送迎しています。もちろん、本来の希望は歩くか、自転車で登園できる認可園です。
自治体を通じて申し込む「認可保育園」は、保育士の配置や施設の広さなどが国の基準を満たし、利用料も比較的安いため、保護者の希望が集中します。「待機児童数」というと、この認可園に申し込んで落選した子どもの総数、というイメージがありますが、実際は総数から、様々な場合が差し引かれ、発表されています。
それは、厚生労働省が、自治体からの要請に応じ、落選した子どもでも「待機児童に含まなくてもよい」とする除外規定を設けているからです。
規定は5つあり、①保護者が求職活動を停止した②特定の園を希望している③自治体が補助する認可外施設を利用している(東京都の認証保育所など)④保護者が育児休業中⑤認可外の「企業主導型保育所」を利用している、場合です。昨年4月時点の全国の待機児童数の合計は約2万人でしたが、こうして含まれなかった子どもたちが、別に7万人超いました。
9月に発表された厚労省の資料をもとに、朝日新聞が県庁所在地、指定市、東京23区、待機児童数が50人以上だった自治体の計147市区町村のデータを分析したところ、「待機児童ゼロ」と発表した自治体にも、認可保育園に申し込んで入れなかった子どもが大勢いることが分かりました。冒頭の女性が住む札幌市の場合も、落選した子どもの総数は1689人でした。
共働き世帯が多くなるなか、保育園に子どもを預けられるかどうかは、保護者の失業にもつながる大問題です。自治体が発表する待機児童数は、住む場所を選ぶ際に重要なデータになりますが、こうした状況では、正確な情報がつかめません。
保護者らの批判が強まるなか、厚労省は、今年度から、除外規定のうちの一つ、「育休中」の保護者の扱いについて、一律に待機児童から差し引かず、復職の意思を確認して、待機児童に含めることを自治体に求めることにしました。
しかし、今回の分析で、「復職の意思」があるといったん認定されても、別の除外規定にあてはめられて、待機児童から差し引かれる実態があることが分かってきました。
たとえば川崎市では、認可保育園に落ちた申込者のうち、育休中で復職の意思がある、とされた保護者の子どもが少なくとも418人いましたが、「待機児童」に認定されたの18人だけでした。待機児童に含まなくていい、別の規定である「特定の園を希望した」などとして、差し引かれた結果だといいます。
また、5年連続で待機児童ゼロと発表した京都市でも、やはり「特定園希望」として、除かれた児童が約400人に上りました。
「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」の天野妙代表は、「自治体は、見せかけの『待機児童ゼロ』には全く意味がないことに、そろそろ気づいてほしい。本来のニーズから目をそらそうとせず、適切な整備計画を立てることこそ、早急に求められている」と話します。(中井なつみ)
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