日曜は完全オフで、それとは別に自由に使える10日間の「年休」がある。強豪校では珍しい「時短」練習の近大付(大阪)男子が、23日に東京で始まるバスケットボールの全国高校選手権(ソフトバンクウインターカップ=朝日新聞社など主催)に出場する。
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放任ではない
「休むのは権利。生徒も一緒」。2003年から部を率いる同校OBの大森健史(たけし)監督(43)は、そう言い切る。16年から、大会や大会直前などやむを得ない時をのぞいて日曜の練習はなしで、体育館は開けない。さらに10日間の「年休」を与え、生徒は家族旅行など、思い思いの時間を過ごす。休む理由もタイミングも、部員の判断で決めている。スケボーやパントマイム、音楽など、バスケと関係ない趣味を楽しむ生徒もいる。
休みが多い代わりに、普段の練習は遅くまでみっちりかと思いきや、そうではない。隊列を組んでのランニングや、ダッシュなどのフットワークもほぼしない。はじめからボールを使って実践的な練習を約2時間。それだけだ。
自身の学校での業務との両立も一つの目的だが、「毎日同じサイクルで練習すると思考が停止する。休みを使ってバスケ以外のことにも視野を広げ、フレッシュな気持ちで練習に臨んでほしいと思った」と狙いを話す。なるべく日曜は休みにしていたが、部として特待生の選手獲得をやめた16年を機に、日曜オフや年休を部の方針として明確に打ち出した。
自由に休ませるが、「放任」ではない。「休むのとサボるのは違う」と釘を刺し、理由がはっきりせずに年休をとろうとする生徒には「それでいいの?」と、そっと導く。
怒る代わりに「なぜ?」
練習でも、コミュニケーションを重視。まずいプレーをした選手に、大森監督は怒る代わりに「なぜ?」と問う。「強豪中学から来た選手は、指導者の指示を待つ傾向にある。指導者の問いかけに何でも『はい!』とだけ答えてきた生徒は、うちに来ると苦しむかもしれません」
「自立できた選手はそれだけ伸びる」というのが、大森監督の持論だ。80人近い大所帯には、高校からバスケを始めた初心者もいる。競争の結果Aチームに入れなかった生徒も、「データ班」や「応援部」、「審判部」のほか、活動に必要な道具や遠征での行動予定を考える「企画部」などで、それぞれが主体的に参加する。
全国高校選手権で上位に勝ち進む強豪校の多くは、朝練、遅くまでの練習、週末の一日練習、自主練習、といった「バスケ漬け」の環境にある。それでも、近大付は全国大会の常連で、15年には全国高校選抜優勝大会(現在の選手権)で8強。「時短」を徹底した翌年も同大会に出場して3回戦に進んだ。
今年のチームは、攻撃がうまくいかない時間帯も耐え忍ぶことができる、粘り強い守備が特徴。ロースコアの試合が身上で、大阪予選決勝でも、劣勢から終盤にたたみかけて大塚に45―42で競り勝った。大森監督は「全国の舞台では、勝つことを目指しながらも、そこでしか学べないことを吸収できたら」と話した。近大付は24日の1回戦で前橋育英(群馬)と対戦する。(高岡佐也子)