愛知県は、外国にルーツを持ち、日本語学習が必要な子どもたちが全国で最も多いとされる。主に働く青年の学ぶ場だった定時制高校の役割も変わり、外国人の学びの場として受け皿になっている。政府による外国人労働者の受け入れが今後さらに進むなか、教育現場では模索が続いている。
卒業生も「先生」役、定時制支える
1月10日夕、愛知県蒲郡市にある県立蒲郡高校の教室。フィリピン出身で定時制1年の3人が日本語能力試験の問題を解いていた。
「『いし』ってストーン(石)?」
「ノー。『○○をしたい』という意味の意思。『will』だよ」
来日から日が浅い生徒に英語を交えて教えるのは、愛知大2年の中村アヤさん(22)。「外国人生徒教育支援員」として、日本語学習を支える。中村さんもフィリピン生まれ。7年前、父の死を機に母と来日し、日本語を1年学んでから蒲郡高定時制に進んだ。「『外国人』というステレオタイプを打ち破り、大学まで行って日本社会に貢献できると証明したかった」
言葉に苦労し、学校では日本人の級友と積極的に話せないこともあった。「日本語を学ぶ人の気持ちが分かる。将来は日本と外国の生徒がお互い理解できるよう、サポートできる教師になりたい」。英語教師をめざして勉強している。
同じく卒業生で、日系3世の伊禮(いれい)パトリシアさん(39)も教育支援員だ。ブラジル出身で17歳で母と弟と来日。結婚、出産を経て、29歳で蒲郡高校の定時制で学び直し、同じように外国にルーツを持つ生徒たちを支える側にまわった。
教師ではない。だが、生徒から相談を受ければ、伊禮さんも自ら学び、助言する。「困っていたら助けてあげたい。『先生見て、赤点じゃなかった』と言ってもらえると、自分の子どものようにうれしい」
蒲郡高定時制の生徒数97人のうち外国籍の生徒は現在41人。5年前の3倍に増えた。ポルトガル語などの支援員5人が学習支援のほか、保護者会などで通訳を担う。伊禮さん(39)もその一人。田中和宏教頭は「保護者と教員を仲立ちし、親の悩み、教員の思いを丁寧に伝えてくれる。支援員さんに本校の教育は支えられている」と感謝する。
愛知県教育委員会によると、県内にある公立の定時制高校は31校。国語などの授業で、外国出身の生徒だけ集めて分かりやすく日本語で教える「取り出し授業」をする学校もあるが、学校ごとに対応は分かれる。県内の定時制のベテラン男性教諭は言う。「日本語の力を卒業までにどこまで伸ばすのか、明確な道筋があるわけではない。日本語指導ができる教員や支援員ら現場頼みになっている面は否めない」
担当教員倍増「まだ足りない」
文部科学省の2016年度の調査によると、愛知県内で日本語指導が必要な外国籍の児童生徒は7277人。6年前に比べ3割ほど増え、国内で該当する児童生徒の5人に1人が愛知に集中している。
母語別では44・3%がブラジルの公用語ポルトガル語。フィリピノ語、中国語、スペイン語が続き、この4言語で全体の9割近くを占める。日本国籍を持ちながら、外国で育つなどして日本語教育が必要な児童生徒も1998人いる。
愛知県教委の独自調査によると、昨春中学校を卒業した日本語教育が必要な生徒(名古屋市を除く)の31%が公立の定時制高校に進み、公立全日制高校に進学した24%より多かった。高校や特別支援学校に進んだ生徒は全体の75・6%にとどまり、県全体(名古屋市を含む)の進学率98・5%(18年度の学校基本調査速報値)と比べると差が目立つ。県立の中川商業、名古屋南、小牧など9高校が外国人生徒向けの特別入試をしているが、昨春の合格者は計26人だった。
愛知県は公立校の日本語担当教員を国の基準に上乗せして配置している。18年度は小中学校に542人おり、10年前からほぼ倍増した。ほかにも学校生活を支援するために小中学校を巡回する「語学相談員」や、高校の授業を補助する「外国人生徒教育支援員」が配置されているが、「現場からはまだ足りないという声が多い」と県教委の担当者はいう。
人材確保も課題だ。日本語担当教員は教員免許を持った教員が担うが、外国人に日本語を教えられる語学力と専門知識を持つ教員は限られている。県教委は、ポルトガル語やフィリピノ語などを話せる人材を教員採用試験の結果に加味するようにしているが、なかなか集まらないという。高校の教育支援員を担える語学力を持った人材は各校で探す必要があり、現場の負担にもなっている。(斉藤佑介、日高奈緒)