田臥勇太は笑っていた。ピリピリするほどの緊張感が漂うバスケットボール・Bリーグチャンピオンシップ(CS)。その準々決勝で27日、田臥がいる栃木は川崎に2連勝し、準決勝進出を決めた。チームカラーの黄色に染まったホーム・ブレックスアリーナ宇都宮の観客席を感慨深く見つめ、「いよいよ始まったんだなと。やっぱりCSは楽しいっすね」。
昨季CSの悔しさ糧に
振り返ると、今季は開幕直後から気合の入りようが違っていたように思う。昨年10月13日の富山戦では、Bリーグで自身最多となる9アシストで逆転試合を演出。報道陣が総じて「田臥さん、またうまくなったのでは?」と驚くほどの体のキレを見せていた。
原動力になったのは、昨季CSで味わった悔しさだ。ワイルドカード下位で滑り込んだものの、1勝も挙げられずに準々決勝敗退。「なんとか(CSに)来られた状態だった」と吐露し、今季への立て直しを誓っていた。
ところが、田臥は10月以降、持病の腰のけがが悪化して長く戦線離脱を強いられる。すでに38歳。肉体の衰えと向き合わざるをえず、レギュラーシーズン出場は60試合中15試合にとどまった。
シュート決まらずも笑顔
ただ、チームは開幕から勢いを保ち、東地区2位でCS進出を決めた。「昨季と違って層が厚くなった。地に足を着けて、どっしりとみんなで戦えている感覚はある」。自身は「まだイメージしているプレーと実際の動きにギャップがある」状態だが、仲間の成長を感じられるからこそ、昨季のような苦しさはない。
先勝して迎えた27日の第2戦、そんな田臥の心境を象徴するようなシーンがあった。第3クオーターの残り2分、怒濤(どとう)の攻撃で栃木がリードを広げる展開。流れに乗って田臥も自らドリブルで速攻を仕掛けたが、惜しくも相手のブロックにかかってシュートは決まらなかった。悔しそうに手を打ちながら、それでもパスを待ち構えていた竹内公と笑みを交わしていた。
「スピードには乗れたなって感じはあったんですけど、まだまだ……。でも、バスケットができること自体がうれしい」。試合後はそう振り返りながら、生き生きとした表情を見せた。
5月4日に始まる準決勝は東地区1位のライバル・千葉が相手だ。「チームとしても個人としても、まだまだ成長できる部分がある。しっかり準備していきたい」と田臥。大一番で観客を魅了するのは、やはりこの男かもしれない。