クレジットカードのVISA(ビザ)が、カードを端末にかざすだけの「タッチ決済」の導入を日本で本格化させる。すでに豪州や欧州で普及しており、東京五輪を来年に控え、訪日客らの利用もにらむ。JR東日本の「スイカ」など、先行する国内限定のタッチ決済に挑む。
クレジットカードの決済は通常、カードを端末に差し込み、サインや暗証番号を入力する。これに対してタッチ決済は、カードを専用の端末にかざすだけで支払いが完了する。タッチ決済の機能がついたクレジットカードが必要だ。
豪メルボルンに住む弁護士のジョン・クローカーさん(32)は、地元で「タップ」と呼ばれるタッチ決済がお気に入りだ。「コーヒーや昼食は全てタップ。小さなお店でも使える。現金は5%しか使わない」。豪州では2011年以降、大手スーパーでの導入をきっかけに急速に広まった。
英国では12年のロンドン五輪をきっかけに広まり、現在はカードで地下鉄にも乗れる。運営会社ビザ・ワールドワイド・ジャパンによると、豪州や英国のほか、シンガポールやスペイン、イタリアなどもクレジットカード利用の5割以上がタッチ決済という。ビザは昨年の韓国・平昌(ピョンチャン)五輪では手袋型の決済デバイスを披露し、話題を集めた。
日本でも18年末までに、タッチ決済対応のマークが入ったビザカードの発行枚数は500万枚を超えた。ただ、使える店舗はマクドナルドやローソンなどに限られており、利用店舗の拡大が普及の条件だ。
タッチ決済の通信規格は国内と海外で違い、互換性がない。ビザが使う規格は、国際標準の「タイプA/B」。マスターカードやアメリカン・エキスプレスもこの規格でのタッチ決済を展開している。
一方、国内で普及するタッチ決済は、ソニーの通信規格「FeliCa(フェリカ)」を使う。「スイカ」に代表される交通系のほか、「ワオン」「楽天Edy」「クイックペイ」「ナナコ」などもそうだ。ただ、フェリカは海外ではほとんどみられず、訪日客は自国で使うカードなどをそのまま日本で使うことが難しい。
そこでビザは、訪日客の利用のしやすさを店側にアピールして端末を導入してもらう。20年の東京五輪までにいまの加盟店で使えるように端末の普及を急ぐ。
日本でクレジットカードは、1万円以上の高額利用が一般的だ。ビザは手軽なタッチ決済の普及で、少額での利用も取り込みたい考えだ。
国内ではタッチ決済のほかに「ペイペイ」や「LINEペイ」などQRコードを使った決済も登場。キャッシュレス決済での覇権をめぐり、各社が大規模な還元策を打つなど乱戦状態となっている。
決済に占めるキャッシュレスの比率は、日本は低い。経済産業省のまとめによると、16年時点の比率は豪州で6割、英国で7割なのに対し、日本は2割にとどまる。経産省は、これを25年までに4割へ引き上げることをめざしている。(栗林史子)