サッカー女子ワールドカップ(W杯)で日本女子代表(なでしこジャパン)は25日(日本時間26日午前4時開始)、決勝トーナメント1回戦でオランダと対戦する。2017年欧州選手権を制した強敵は選手の運動能力が高く、攻撃のスピードが速い。日本はそんな欧米勢に対抗するため、新たなトレーニングを重ねて力をつけてきた。その真価が問われる。
16年4月に高倉麻子監督(51)が就任してから、選手にスプリント能力を高めるトレーニングを導入した。その目標値は明確だ。「各選手のスプリント力を1%~2%上げる」
その年、代表に復帰した広瀬統一(のりかず)フィジカルコーチ(44)が本格的に器具を使うフィジカルトレーニングで筋力アップを目指した。
代表活動のない期間は週1、2回、スクワットやおもりをつけて体幹トレーニングをして、おしりや股関節周りを鍛えた。広瀬コーチが個別に指導した選手もいる。
この結果、選手平均の10メートル走は16年12月に1秒86かかっていたが、18年1月には1秒82秒に短縮。「平均で1%から1・4%上がった」(広瀬コーチ)と、目標をクリアしてきた。
新しいトレーニングを採り入れた理由は、広瀬コーチの経験に基づくところもある。08年から日本女子代表に関わり、15年9月から1年間は米国でトレーニングを学んだ。
サンノゼ州立大で研究し、サンタクララ大の女子チームのコーチとも議論を重ねた。そこで目の当たりにしたのは、強豪国の女子サッカー選手の運動能力を高める方法だ。
全米大学体育協会(NCAA)の1部チーム数は300を超え、競争が激しい。大学1年時はきゃしゃな体格の選手もいるが、1年もすると、しっかりとした体つきに変わっていた。プレシーズンは1週間に20時間しかチームの活動ができない時期があり、そのうちボールを使えるのは8時間という制約もある。それ以外の時間はミーティングや筋力トレーニングに費やしていた。
身体能力が高い選手が、さらに伸びる。広瀬コーチは「米国の選手は運動能力を伸ばす努力、工夫をしている。人種による運動能力の差はゼロではないが、日本選手も努力すべきだ」と考えるようになった。それが代表の筋力トレーニングにつながっている。
欧米勢に対応するため瞬時にスピードを落とす「減速」にも、日本代表は力を入れてきた。重心の高い選手は瞬間的に止まりにくい。重心の低い日本選手が急に止まると、欧米勢はバランスを崩しやすく、優位に立てるためだ。
広瀬コーチは重心をコントロールすることを指導。気をつけたのは無意識にできること。意識しながら動くと、プレーするスピードが落ちるためだ。ウォーミングアップで走り方を伝えたり、気になる選手は個別に呼んで矯正したりしてきた。
日本は国際試合で、加減速のデータを16年から毎試合のように、GPS(全地球測位システム)をつかって計測し、1試合のうちにトップスピードから止まる「減速」の回数が増えているかも調査。広瀬コーチの手応えは小さくない。「7~8割の選手は上がった」
日本はこの3年かけ、積み上げてきた速さで、世界屈指のスピードを誇るオランダに勝負できるか。(レンヌ=堤之剛)