11月19日、日本の瀬戸内海で、小学生52人を含む62人が乗った小型船が漂流物に衝突し沈没した事故が、半月経った今も、中国で話題となっている。なぜなら、小学生52人全員が無事救助されたことに、中国の保護者の多くが称賛の声を上げているからだ。中国青年報が報じた。
同日、小学生52人と、教師5人、船員5人の合わせて62人を乗せて、香川県坂出市沖にある与島の北側を航行していた小型船「Shrimp of Art」が、漂流物に衝突し沈没した。日本メディアの報道によると、小型船が沈み始めたため、沈没は避けられないと判断した船長が、118番通報をした後、小学生52人に救命胴衣を着けて海に飛び込むよう指示した。勇敢な一部の児童が率先して海に飛び込み、その後、他の児童にも飛び込むよう励ましたという。こうして小学生たちは、互いに励まし、助け合い、沈みかけた船から次々海に飛び込み、近くにいた漁船が駆け付けるまで、多くの児童が海の中で救助を待っていた。中国の保護者たちが驚いているのは、日本の小学生のほとんどが泳げるだけでなく、命の危険に直面しても、パニックになることなく、互いに助け合い、危機を乗り越えた点だ。
今回、日本の小学生が船の沈没事故に落ち着いて対応し、自分の命を守ることのできる行動をしたことで、中国の保護者や学者たちは、日本の学校における体育教育に学ぶ価値があると改めて認識させられている。
雲南大学体育学院の王宗平院長は、「このケースは、体育教育は孤立した存在ではなく、『三生教育(生命、生存、生活)』と密接に結びついていることを示している。体育教育は、学生たちにもっと健康になり、楽しく生き、生活してもらうことが根本的な目的。中国の体育教育も、『学ぶ』と『生きる』ことをさらにうまく結びつけていかなければならない。そして、『学ぶ』ことはプロセスであり、経過であって、その目的と根本は『生きる』ことにあることを認識しなければならない」と指摘している。
日本の筑波大学体育系の小野誠司准教授は取材に対して、「日本では、ほとんど全ての学校で水泳の授業がある。しかし、水泳の授業の目標は、学生が泳げるようになることだけではない。水難事故への対応というのも、日本の学生が水泳の授業で学ぶ重要な内容。日本の学校には、着衣水泳の授業がある。その授業では、通常の衣服を着たまま水の中に入るとどうなるかを実感し、どのように身体をコントロールするかを体験する。水に落ちた時に、ちょうど水着を着ているということは考えにくい。実験では、普通の衣服は水着の4倍以上の水を吸うことが分かっている。泳ぎをマスターしている学生でも、普通の衣服を着ている時に水に落ちると、思うように体が動かないと感じる。もし、学生が着衣水泳の授業を受けたことがないと、突然水難事故にあった時に冷静に対応できない」と説明した。
そして、「今回の沈没事故は、日本でも注目を集めている。52人の小学生が巻き込まれており、冬の海水の温度が非常に低い時に、全員が無事だったというのは本当に奇跡的。今回の事故が起きて、日本の教育界も考えさせられている。例えば、危機管理関連の水泳の授業の価値が認められているものの、学生たちの興味が電子機器に向いている状況下で、どのように新たな形で楽しく体育に参加し続けてもらうかなどだ」と語った。
今回の沈没事故で、危機に直面した時、日本の小学生が互いに励まし合い、助け合った経緯に、中国の保護者や学者たちは、「なぜ、日本の児童の団結して協力する能力はこれほど高いのだろう」と感心している。
実際には、これも体育教育と関係がある。
王院長は、「体育は競争であると同時に、協力して競争するものでもある」と指摘する。
今年4月、オランダの高校生25人が、1920年建造の帆船「ウィルドスワン」でキューバから帰国したというニュースは、中国で大きな話題となった。当時、新型コロナウイルスの影響で、6週間の帆船実習を終え、帰国便に乗る予定だった25人はキューバで寄港を拒否され空路で帰れなくなった。そのため、最終的に、教師のサポートの下、「ウィルドスワン」でオランダに帰国することにした。そして、38日間かけて大西洋を渡り、無事帰国し、家に戻ることができた。このオランダの高校生の快挙にも、中国の保護者たちは、「そのような決定をする勇気はどこから来るのか。そして、本当にやってのけた」と目を丸くした。
学生はスポーツに参加することで、チームワークを学ぶこともできる。ピンチの時に、みんなで知恵を出し合い、力を一つにすることを学ぶことができる。王院長は、「中国は今、集団球技系の種目を体育の授業に取り入れることをより重視するようになっている。例えば、サッカーをすることを推奨しているのも、学生にチームワークを学んでもらうためだ。しかし、中国の多くの学校、教師、保護者は、学校の体育を通して、学生がチームワークを学ぶことの大切さを十分には認識していない」との見方を示す。
欧米や日本などの学校における体育活動の展開を観察すると、サッカーやバスケットボール、野球、ラグビー、アイスホッケーなどの集団球技が人気を集めていることが見て取れる。そして、それらの種目を展開する過程で、学生には一致団結を特に強調して教えている。水泳や体操、テニスなどの個人種目であっても、それらの国は、チームプレーを提唱している。例えば、水泳のリレー各種種目の団体戦などがある。チームプレーの精神というのは、単に学生が力を合わせて試合に勝つというだけではなく、みんなでピンチや挫折に対応し、一人ひとりが自分の責任を果たすという部分にも表れる。
中国は昔から団結を重視する国だ。王院長は、「国家レベル、社会レベルの団結だけでなく、小さな範囲、一つの機関、一つのグループという小さなレベルでの団結も重視しなければならない。体育は、児童たちにそのような小さな範囲で、身近な団結力を感じ、それを育ててもらうのに最も適したプラットフォームだ」と指摘する。(編集KN)
「人民網日本語版」2020年12月10日