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宇宙旅行も夢ではなくなった昨今。火星での滞在を目指し、宇宙に長期間居住できるよう、衣食住を賄う宇宙農場構想の骨格がまとまった。「宇宙農業サロン」(世話人、山下雅道・宇宙航空研究開発機構教授)が提案した構想は蚕を主役とするユニークな内容。蚕の餌となる桑の葉や木、実も利用でき、繭からは繊維もとれる。サナギはたんぱく源として最適らしい。【下桐実雅子】 「ほんのり甘みがあっておいしいでしょう」。山下教授(宇宙生物学)が出してくれたお茶は「桑(くわ)茶」。研究室がある神奈川県相模原市の敷地内に自生している桑の木の葉を煎(せん)じた自家製だ。周辺はかつて養蚕が盛んだったという。 山下さんが宇宙食として蚕に注目したのは、飼いやすさだという。研究室の廊下では約1000匹の蚕が研究用に飼育されている。浅い容器に入れられており、熱心に桑の葉を食べる以外は、あまり動かない。 「蚕の繭からは衣服も作れる。桑の実はおいしいし、木は家をつくる材料になる。蚕を飼えば衣食住すべて満たせる」と、サロンのメンバーの片山直美・名古屋女子大講師(給食経営管理論)は力説する。 ◇桑と併せ自給自足 宇宙農業サロンには、惑星科学、宇宙医学、植物、栄養、微生物などの専門家約70人が集まる。提案する宇宙農場構想の原則は、火星資源の有効利用とリサイクル。月と比べて接近時でも200倍も遠い火星には、現在の技術で往復に3年はかかる。宇宙船内に大量の食料を積むことは困難だからだ。 構想によると、宇宙農場は火星表面上の温室ドーム内につくる。内部は気圧や酸素濃度がコントロールされ、人間の居住空間も併設する。 活用できる火星資源の第一は太陽光。火星は昼夜が地球とほぼ同じ周期のため、ドームの光源にする。近年の探査で見つかった火星の水も農作物の栽培に利用。カリウムやリンを含む火星の砂「レゴリス」を使うことも検討中で、レゴリスと似た組成の砂をつくって栽培実験もしている。肥料は人間の排せつ物や生ゴミだ。光合成で得られた作物や酸素を人間が消費し、発生する二酸化炭素などを再利用する自給自足といえる。 ◇肉に近い栄養素 これらの火星資源を有効活用して、最も効率良く人間が生活できるのが蚕と桑を利用する構想だった。日本人は昔からたんぱく源として、「いなご」や「はちのこ」などの昆虫を食べてきた。 蚕のサナギは現在でも長野県で大和煮として売られている。食品成分を調べた片山さんによると、サナギは脂質、たんぱく質、食物繊維を含むが、糖質はほぼゼロで肉に近い。 さらに構想では、稲や大豆、芋、小松菜なども栽培する。魚の養殖や、ビタミンD補給のためのキノコ栽培、アオサなどの海藻を育てることも検討している。桑の木でキノコが育つかも研究中だ。 ◇加熱でエビの味 低重力にストレスも加わる宇宙環境下では、骨のカルシウムが不足したり、運動不足で筋肉が衰えやすくなる。栄養管理や食事は長期滞在するうえで重要なポイントだ。山下教授は「加熱した蚕のサナギはエビやカニのような味でおいしい。日本の伝統食を宇宙で生かす、そういう形で貢献するのもいいのではないか」と話している。 毎日新聞 2006年5月31日 東京朝刊 |
宇宙農場構想:火星暮らしは蚕から 温室ドーム、桑と併せ自給自足
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