中国の独占禁止法当局が10日、スマートフォン(スマホ)向け技術で「優越的地位の乱用」があったとして米半導体大手のクアルコムに過去最大の制裁金支払いを命じた。独禁法違反や商業賄賂などを中心に不正行為への監視を強めており、外資大手の大型摘発が続く。背景には国内産業の保護に加え、習近平指導部が旗印とする「法治」を訴える狙いが透ける。
米クアルコムのスマホ向け技術は中国メーカーの間でも高いシェアを持つ(北京市のレノボ店)
「クアルコムの違法行為は悪質で長期にわたり、極めて重大だ。ただちにやめるよう命じた」。国家発展改革委員会(発改委)が公開した説明資料には厳しい文言が並んでいた。発改委は中国で価格に関する不正行為を取り締まっており、今回の大型摘発の「主役」となった国家機関だ。
クアルコムに科した制裁金は60億8800万元(約1150億円)に上る。同社は韓国などでも同様の摘発を受けたが、これを大幅に上回る。発改委は「事件の性質を考え、法規に沿い2013年度の売上高の8%に当たる罰金を科した」と説明する。罰金は法規で最大10%と定めており、当局がこの事案を重く見ていることを示唆する。
13年冬。「クアルコムが我々から不当に特許使用料を徴収している」。中興通訊(ZTE)や華為技術(ファーウェイ)など中国メーカーから苦情が相次いだことをきっかけに調査に乗り出した。クアルコムには合計28回も事情聴取があったとされる。同社幹部が秘密裏に訪中し、発改委のオフィスを訪れる姿も度々目撃された。
調査には1年以上をかけた。クアルコムの中国法人オフィスや「被害」を受けたとされる中国メーカーには担当の調査官が乗り込み、丹念に資料を洗っていたという。最終的に携帯端末の高速通信技術を巡り、クアルコムが自社技術の利用を押しつけ、中国メーカーから特許使用料を不当に得た実態を突き止める。
罰金は巨額な上に、中国での印象悪化も避けられない。このためクアルコム側も必死だった。昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)期間中にはスティーブ・モレンコフ最高経営責任者(CEO)も訪中し、発改委の高官と交渉を重ねた。米オバマ大統領が習氏との会談で「独禁法の乱用」に懸念を示す援護射撃もあった。
しかし発改委は最後まで厳しい姿勢を徹底した。「妨害行為」があったとみるからだ。
「クアルコムが提出した資料には重大な問題がある」。昨年9月、発改委の価格監督検査・独占禁止局の許昆林局長は記者会見でこう強調していた。中国メディアによると、クアルコムが政府系の中国社会科学院などシンクタンクの有力研究者に金銭を渡し、独禁法の調査で有利になるような報告書の作成を働きかけていたという。
「欧米などの独禁法当局とも積極的に連携している」。かねて発改委幹部は中国の調査や摘発の手法の正当性をアピールしていた。最終的にクアルコムは発改委と罰金支払いと業務改善で合意した。だが稼ぎ頭の中国でこれまでのビジネス手法が通じなくなることのダメージも大きい。「(発改委の)調査結果には失望した」。10日の声明ではせめてもの抵抗を見せた。