【カイロ=押野真也】中東・北アフリカやフランスで26日、同時多発的に発生したテロ事件による死者の数は100人を超えたもようだ。チュニジア中部の観光地スースで起きた事件では英国やドイツなどの外国人観光客など39人が死亡した。チュニジアでは3月に首都チュニスでの博物館襲撃事件があったばかり。チュニジア政府は治安改善をアピールしてきただけに、出ばなをくじかれた格好だ。
チュニジアで起きたテロ事件で手当てを受ける負傷者ら(26日、スース)=AP
ロイター通信によると、チュニジアとクウェートの事件について、過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)が犯行声明を出した。4カ国で起きたテロ事件の関連性は不明だが、過激派組織に共鳴する若者も多く、テロが拡散する脅威が高まっている。
現地報道によると、チュニジアで警官に射殺された実行犯の一人は若い男で、当局の監視対象になっていない学生だったという。事件を受け、チュニジア政府は国内にある80カ所のモスク(イスラム礼拝施設)を一時的に閉鎖する方針を示した。チュニジア政府高官は3月、「一部の国内のモスクは過激派に支配されており、過激思想を広める役割を担っている」と述べており、警戒を強めているもようだ。
イスラム圏では、6月中旬からイスラム教の儀式「ラマダン(断食月)」に入っている。一般的に、ラマダン期間は信仰心が高まり、ISはこの期間を狙って欧米の非イスラム教徒へのテロを呼びかけている。
チュニジアは3月の博物館襲撃事件以降、テロの封じ込めを強化してきた。4月24日の日本経済新聞との会見で、シド首相は「治安改善に全力を挙げており、テロによる観光客の落ち込みは限定的だ」と強調し、夏の観光シーズンには外国人観光客は回復するとの見通しを示していた。
チュニジアにとって、観光産業は国内総生産(GDP)総額の15%を占める主力産業だ。今回の事件を受けて欧米からの観光客数が落ち込むのは避けられず、低迷する経済の回復がさらに遅れるのは確実だ。
チュニジア政府は内戦が続く隣国のリビアから戦闘員や武器が流入するのを防ぐため、リビアとの国境付近で数キロメートルごとに兵士の駐屯基地を設け、防護壁を設置する案も検討している。ただ、チュニジアの場合、海外の武装勢力だけでなく、自国民によるテロも警戒している。
チュニジアからはシリアやイラクに3000人以上が戦闘員として渡航しているとされる。チュニジアは失業などで若者を中心に閉塞感が強まっており、イスラム過激派に身を投じる若者が後を絶たない。こうした戦闘員がチュニジアに帰還してテロを引き起こす懸念が強まっている。
今回テロが起きたフランスでも多くの若者がシリアやイラクに戦闘員として渡航している。国境審査でテロリストかどうか判断するのは難しい。「(こうしたテロ予備軍が)いつ爆発してもおかしくない状況」(仏紙)との指摘もあり、テロが中東から欧米に拡散する脅威がかつてなく高まっている。