九州電力は11日、川内原子力発電所1号機(鹿児島県)を再稼働させた。すべての原発が止まった「原発ゼロ」の状態は約2年ぶりに解消され、2011年3月の東日本大震災で揺れた日本のエネルギー政策は正常化への一歩を踏み出した。ただ震災を受けて導入された原子力規制委員会の厳しい安全基準もあり、40余りある後続原発の再稼働の行方は不透明だ。30年時点で全発電量の2割以上を原子力で賄う政府目標の達成は予断を許さない。
川内原発1号機の中央制御室で原子炉の起動操作をする運転員。上は制御棒が引き抜かれていることを示す表示板(11日、鹿児島県薩摩川内市)=代表撮影
川内1号機は11日午前10時半、原子炉の核分裂反応を抑える制御棒が段階的に引き抜かれ、原子炉が起動した。同日午後11時ごろには核分裂が連続して起きる「臨界」に達した。14日夜から蒸気でタービンを回して発電し、電気を送り始める。川内2号機は10月中の再稼働をめざす。
九電の瓜生道明社長は「安全確保を最優先に慎重に進める」とのコメントを発表した。宮沢洋一経済産業相は11日の記者会見で「万が一事故が起きた場合は国が先頭に立ち、責任を持って対処する」と強調した。
東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故を受け、全国の原発は段階的に停止した。民主党政権時の12年に電力不足に対応して一部の原発を例外的に稼働させたが、13年秋以降は「原発ゼロ」が続いていた。
政府は大震災後に初めてまとめた昨年4月のエネルギー基本計画で原発を「重要な基幹電源」と位置づけるなど再稼働への布石を打ってきた。今後も規制委の審査に合格した原発の再稼働を進めていく方針だが、実現は容易でない。
全国の原発のうち25基が再稼働をめざし規制委に審査を申請済み。ただ審査に合格し稼働時期のメドが立つのは川内原発のほかは、今冬が見込まれる四国電力の伊方3号機(愛媛県)だけだ。
12年9月に発足した規制委が、翌年7月に設けた厳しい基準が理由だ。福島原発の事故を教訓に地震、津波など多岐にわたる対応を求めた。
規制委の専門家会合は今年7月、北陸電力志賀1号機(石川県)の原子炉建屋直下を走る断層について活断層の疑いを指摘。日本原子力発電の敦賀2号機(福井県)も同様の問題を抱え、再稼働に暗雲が垂れこめる。
司法の壁も立ちはだかる。地元住民が再稼働差し止めの仮処分を申し立てた関西電力の高浜3、4号機(福井県)は今年4月、福井地裁が運転を認めない決定をした。
原則40年の運転制限の時期が近づく老朽原発の再稼働も焦点だ。関電の高浜1、2号機は火災対策などの課題を規制委に指摘され、特例で認められている20年の運転延長が見通せずにいる。
原子炉の主流である軽水炉には加圧水型と沸騰水型の2種類があるが、福島第1原発と同じ沸騰水型はとりわけ審査の遅れが目立つ。
原発の再稼働が進まないなか電力各社は火力発電への依存を高め、化石燃料の輸入が急増。全国平均の電気料金は震災前より家庭向けで25%、企業向けで38%上昇し経済の重荷になっている。
政府は30年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)で原発比率を20~22%としたが、今のままでは達成が困難。温暖化ガス排出量を同年に13年比26%減らす国際公約にも黄信号がともる。