ウラジーミル・プーチン氏は長年、西側諸国の指導者たちの不意を突く機会を逃さない巧妙な戦術家として鳴らしてきた。そのプーチン氏が、シリア危機に対する新たな構想で定評に磨きをかけようとしている。

ロシア大統領のプーチン氏は数週間前から、シリアで過激派組織「イスラム国」（ＩＳ）と戦っている盟友のアサド大統領を支援するために、ロシア軍の兵員と航空機をシリア領内に送り込んでいる。プーチン氏は28日の国連総会での演説で自らの構想を打ち出し、シリア政府のＩＳとの戦いを支援する連合に米国も加わるよう求めた。

会談前のオバマ大統領（右）とプーチン大統領（28日、国連）＝ＡＰ

米国のオバマ大統領は、国連演説でアサド政権への支援を当然ながら拒否した。オバマ氏は、シリアにおける殺りくはアサド氏が平和的な民主化運動を弾圧した４年前に始まったのであり、アサド氏は去らなければならないと主張した。しかし不幸にして、米政府のシリアに対する選択の難しさはまったく変わっていない。25万人の死者が出ているシリア内戦は、特におびただしい数のシリア難民が欧州に流れ込むようになったことで、西側諸国の政府にとって悪夢と化した。その結果、米国はシリアの今後についてプーチン氏との協力を排除できなくなった。

■プーチン氏の動機を見極める必要

米政府は、プーチン氏のＩＳ掃討の真の動機を正しく認識する必要がある。ロシアは中東のイスラム過激派によるテロの脅威に直面しているが、ロシア政府はシリアに軍事上の足場を保つことも狙っている。さらに重要な点として、プーチン氏は国際社会からつまはじきされる羽目になったウクライナの紛争から世界の目をそらし、また西側の制裁で打撃を受けたロシア経済の落ち込みから国民の目をそらそうともしている。プーチン氏は、ロシアが無視できない大国であること、孤立させるわけにはいかない大国であることを示したがっている。

オバマ政権にとって難しいのは、プーチン氏がシリアに対する構想を持っている一方で、米政府には構想がないことだ。イラクとアフガニスタンへの米国の介入が悲惨な結果に終わった後、オバマ氏は可能な限り他国への介入を避けてきた。オバマ氏はシリアの穏健派の反体制勢力への支援を拒み、アサド氏の化学兵器使用を「越えてはならない一線」として行動を起こすこともなかった。したがって、プーチン氏は西側の政策が残した空白を突ける立場にある。

オバマ氏が今週、プーチン氏の構想をはなからはねつけずに国連で会談したことは正しかった。米国は対ＩＳ軍事作戦にロシアとの協力を必要としないが、これを外交上の好機としてロシア政府に対し、アサド政権からの体制移行を支援するよう迫ることができる。プーチン氏は今のところアサド氏を守ろうとしているかもしれないが、シリア内戦はテロリストの訓練の場となっており、際限なく続くことはプーチン氏にとってもまったく利益にならない。

しかしながら、米国はロシアとの関係を無条件で修復すべきではない。ウクライナに関して国際規範を顧みなかったプーチン氏に対しては、本当に誠実な姿勢なのかを見定める必要がある。ウクライナ政府は２月にミンスクで成立した停戦合意の義務を履行し、地方への権限移譲を進めている。

ロシア政府は、ウクライナ東部から人員と物資を引き揚げることで応じなければならない。また、ウクライナ政府の管理下で同国とロシアの国境を封鎖する必要もある。

プーチン氏がこのような措置を取ったなら、米国はロシア政府が求めているより深い対話について検討すべきだ。現在のひびが入った米ロ関係は安全保障と外交の数々の側面で合意を妨げている。しかし、プーチン氏はまず、冷戦後の安全保障の秩序を支える意思を示さなければならない。現状では、その点がまったく確かになっていない。

（2015年９月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙）

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