金沢刑務所(金沢市)が、矯正教育の一環として、受刑者の刑務作業に地元の伝統工芸品づくりを取り入れている。刑務所は「集中力や忍耐力が身に付く」と成果を強調し、後継者不足に悩む地元の職人からも「生産を手伝ってもらえて助かる」との声が寄せられている。
取り入れたのは薄いヒノキの板を手作業で編み込んで作るヒノキ細工。江戸時代中期に、現在の石川県白山市周辺で発展した、県指定の伝統工芸だ。特に直径約50センチの編みがさは丈夫で通気性が良く、農作業で重宝されている。
金沢刑務所では家具部品の生産が木工作業の中心だったが、海外に生産拠点を移す企業が増え、十数年前から受注が激減。そこで地元のヒノキ細工に着目した。技術習得にかかる期間や設備投資が少なく、平均刑期が比較的短い同刑務所の特徴にも合っていた。
受刑者に作業を教えるため、金沢刑務所の作業専門官、松原澄さんらが半年間、白山市のヒノキ細工職人、河岸すみゑさんの下に通った。松原さんは「流れ作業でなく、1人で初めから最後まで作るので、受刑者に集中力や忍耐力が身に付く」と説明する。
完成品は河岸さんらの生産グループに納品している。導入した2001年当時、生産グループには専従の職人が数人いたが、現在は高齢の河岸さん1人だけ。土産物としての販売に加え、農作業用に大量の発注があることもあり「刑務所で作ってくれるおかげで助かっている」と話す。
刑務作業品を扱う矯正協会によると、岐阜刑務所(岐阜市)の「春慶塗」や長崎刑務所(長崎県諫早市)の「籃胎漆器」など伝統工芸品をつくる刑務所は各地にある。ただ技術を習ったり、商品を販売したりする際に、地元の職人と密接に連携するケースは多くない。
金沢刑務所では導入から14年間、1~5人ほどの受刑者が1人当たり約2日で1枚のペースで編みがさを作り続けている。河岸さんは「完成品を見ると上達や努力が伝わってくる。矯正教育に役立つならうれしい」と今後も協力していく考えだ。〔共同〕