安倍晋三首相による携帯電話料金の引き下げ指示から7カ月。携帯大手3社の先陣を切って、NTTドコモが長期利用者の値下げを打ち出した。ただ、下げ幅は小さく、首相が掲げた「家計負担の軽減」は実感できそうにない。料金の引き下げ競争が起きるかが、今後の焦点になる。
14日にドコモが発表した6月からの新料金は、ドコモ携帯を長く使ったときの割引を拡充したのが特徴だ。対象を「5年以上の利用者」から「4年以上」に広げ、割引額も最大で月2千円から2500円に拡大する。
割引額はデータ通信量のコースや利用年数によって異なり、割引額が従来と変わらない場合もある。人気が高い「月5ギガバイト分まで」のコースは、割引拡大が最大で月200円にとどまる。
首相指示を受けた総務省が、料金引き下げの具体案をまとめたのが昨年12月。すぐにKDDI(au)、ソフトバンクも含めた大手3社に実施を促した。3社とも通信容量の少ない低料金コースはつくったが、いずれも恩恵がありそうな利用者は少ない。高市早苗総務相は「より多くがメリットを実感できるよう、引き続き見直しを」と述べ、長期利用者向けの料金値下げも呼びかけていた。
ドコモは契約を2年ごとに自動更新する「2年縛り」の見直しも発表した。利用3年目から違約金9500円なしでいつでも解約できるコースを6月に新設する。ただし、長期利用割引はこのコースに適用せず、「2年縛り」の利用者に限る。「2年縛り」には、自動更新時に3千円相当のポイントをつける。
「2年縛り」の見直しは、総務省から昨夏に求められていた。auとソフトバンクは、毎月の料金が300円高い代わりに3年目からいつでも無料解約できるコースを発表済みだ。ドコモは料金を据え置き、先行組との違いを出した。
14日に会見したドコモの阿佐美弘恭常務は「(新料金で)会社全体の収支に影響がないようにしたい」と話した。割引の拡大による減収は、端末代値引きの見直しを含むコスト削減で補いたいという。
■減収恐れ、他社は慎重
総務省は「最大手が動けば影響力が大きい」(幹部)として、ドコモに料金引き下げを先導するよう促していた。期待するのは、他社がより安い料金で対抗し、競争が起きることだ。
ただ、auとソフトバンクが追随するかは不透明。au幹部は「単純な引き下げはできない」と話す。
慎重なのは、料金引き下げが減収につながるからだ。総務省はそうした事情も考慮し、スマホ端末の大幅な値引き販売を禁じる指針をつくり、今月から適用した。端末代値引きの縮小で浮いたお金を「原資」に、通信料金の引き下げを実現するよう各社に求めている。
だが、総務省の思惑とは裏腹に、端末の値引き競争はまだ続いている。携帯販売店の反発が強く、大手各社が「奨励金」を出して値引きを後押ししているためだ。5日に指針違反を指摘されたソフトバンクは、「競争を減殺させ、消費者に不利益を生じさせるおそれが高い」とのコメントを公表し、総務省の手法を批判している。
ソフトバンクの経営陣のひとりは「長期利用者への還元策は重要だが、料金引き下げ以外の手法もあるはずだ」と話す。データ通信容量の上乗せなども検討中だとみられる。(真海喬生、内藤尚志)