ドイツの男性風刺作家が、トルコのエルドアン大統領を過激な表現で風刺し、難民問題でスクラムを組む両国関係に波紋が広がっている。「侮辱だ」と作家の刑事訴追を求めるトルコ側に対し、「表現の自由だ」とドイツ側は反発。板挟みのメルケル独首相は15日、司法手続きを検察当局にゆだねる方針を示した。
コメディアンで風刺作家のヤン・ベーマーマン氏(35)が3月末、公共テレビの番組で披露した詩の中で、エルドアン氏について人種差別や性的に過激な表現で中傷を繰り返した。これに対し、トルコ政府は「侮辱的な詩だ」とドイツ政府に抗議。ドイツの検察当局に国家元首を侮辱した容疑で告訴した。
独DPA通信によるとドイツ刑法では、国家元首などへの侮辱があったと外国政府から訴えがあった場合、検察の捜査開始には独政府の許可が必要となる。起訴されて有罪判決を受ければ、3年以下の懲役刑などが科せられるという。
独シュピーゲル誌は、ベーマーマン氏が首相府長官宛てに「風刺の限界を試すことが許される国に住みたいと願う」などとメッセージを送ったと伝えた。
ドイツでは、エルドアン政権が表現の自由などを侵害しているとの声が高まっていた。騒動を受けて、芸術家たちがべーマーマン氏への支持を表明。世論調査では82%が同氏を「訴追すべきでない」と答えた。
メルケル氏は苦しい立場だ。ドイツには中東などから大量の難民が流入しており、難民の流入抑制策でトルコは欧州連合(EU)と合意したばかり。関係悪化は避けたいのが本音だ。
難しい判断を迫られたメルケル氏は、15日の会見で「法治国家において表現や言論の自由に関する問題は、政府ではなく検察や裁判所が判断するべきだ」と述べ、司法に判断をゆだねることに理解を求めた。一方、シュタインマイヤー外相とマース法相は共同声明で「司法手続きを許可すべきでないと考えていた」とし、政権内で意見対立があったことを示唆した。(ベルリン=玉川透)