(16日、中日4―3阪神)
「この状況で、お前が捕手なら内角はあるか?」。1点を追う九回1死満塁。打席に向かう前に中日の杉山は谷繁監督に耳打ちされた。「ないです」。短いやり取りの後、逆転サヨナラ二塁打が飛び出した。
九回は1死一、二塁から堂上がスライダーを見極めて四球。次打者の杉山はこの配球も含めて、「自分に対してもスライダーで来ると思った」。コースを外寄りに絞りつつ、捕手のサインに首を振る阪神抑えのマテオを見て、狙いを直球に切り替えた。初球。真ん中低めに来た直球を、中越えにはじき返した。
プロ初のサヨナラ安打でも、正捕手を争う杉山は素直に喜ばなかった。「打ったことより、守備が悪かった」。猛省するのは五回1死一塁から許した二盗だ。走者は過去0盗塁の梅野。「(盗塁は)ないだろうと決めつけてしまったのが、隙のあるプレーにつながった」。ここから3失点。谷繁監督も「走ってこないと安易に考えたのだろう。二度とないように」と苦言を呈したプレーだった。
1学年下の桂と激しくポジションを争う25歳。それぞれが先発マスクをかぶったときのチームの勝敗が気になると素直に言う。これで杉山の先発は9試合でチームは4勝。桂は10試合で5勝とほぼ互角だ。
「いずれはどちらかが正捕手になる。そこで自分が負けないようにと思っている」。隙が、流れを変えることを痛感した一戦。殊勲打にも気を緩めることはなかった。(上山浩也)