大学の入学式に出席した新入生の保護者らがスタンド席を埋めていた=7日午前、東京都千代田区、白井伸洋撮影
4月上旬にピークを迎えた大学の入学式。学生の親たちの参加が年々増えており、大学は手厚く対応した。親たちの存在感は、大学の「出口」である就職活動でも大きい。「オヤカク」(親に確認)という言葉が、企業の採用担当者の間で常識になりつつある。
7日に日本武道館であった明治大の入学式。入学生8千人に対して、保護者は1万人以上が出席した。1~3階の家族席はほとんど埋め尽くされた。
長男が政治経済学部に入学した東京都の公務員男性(53)は妻と出席。「子どもの入学式は知り合いもみんな行く。今の時代は子どもの成長を見届けたい気持ちが強いのかも」。理工学部に入学した男性(19)の両親も会場に。「入学式や卒業式に両親がずっと来ており、当たり前のこと」
明治大の広報は「少子化の影響か、子どもへの関心が年々高まっている印象。学生もそれを嫌がらない」と話す。保護者が入りきらず、2008年から、入学式を午前と午後の2回実施。10年からは学生1人につき保護者2人までに入場を制限した。
武蔵野美術大(東京都小平市)も、4日の入学式で会場の体育館アリーナに保護者用の500席を設けたが足りず、別会場を用意して中継した。4年前から対応している。
近畿大(大阪府)は2年前から、保護者に来てもらいやすくするため、入学式を土曜日開催にした。別会場への中継に加え、地方に住む保護者を念頭に、ネット動画配信サイト「ニコニコ生放送」と「ユーストリーム」で生中継もし、計4万3千ビューに上った。
入学後のサービスも手厚い。
近畿大は保護者用の専用ページで子どもの成績や授業の出席を見ることができる。一連の対応は「保護者に今の近畿大を知ってもらうことが必要」(広報)と考えるからだ。法政大は11年から、入学式の後に保護者向けの「キャリアセンターガイダンス」を開き、就職活動のやり方などを説明。夏~秋には全国36カ所で就活の個別相談にものる。早稲田大も09年度から全国各地で保護者や進学希望者に説明会や相談会を開く。
親への配慮について、大学経営に詳しい筑波大ビジネスサイエンス系の吉武博通教授は「18歳人口減少と大学財政を取り巻く環境悪化への危機感が背景にある。学生の卒業後も大学のよき支援者となってもらう関係づくりにもつながる」と話す。
もっとも、大学関係者からはこんな声も。「正直、ここまでやらないといけないのかという気もする。時代は変わりましたね」
■家庭訪問、保護者あてに手紙も
「オヤカク」。企業の新卒採用の現場で広がり始めている言葉だ。企業が内定を出した学生に対して、親が納得するか確認を求めたり、親と会って採用理由を説明したりすることを言う。親に反対されて入社しないケースがあるためだ。
動画マーケティング会社LOCUS(東京都)は5年前から、瀧良太社長が「家庭訪問」している。入社の意思を示した学生の保護者に会社をよく知ってもらいたいという。瀧社長は「この5年、入社を辞退する学生はいない」と話す。採用は数人だが、「人数が増えたら、手分けしてでも続けたい」という。
人材会社ビースタイル(東京都)は社長名で保護者あてに手紙を送る。内定を出した理由を書き、「ちゃんと育てます」と約束。「会社名を知らない親は不安に思う。安心して入れる会社ですよと説明するのが狙い」(広報)という。
人事支援サービスのProFuture・HR総研が3月、「親対策」の有無を企業に尋ねると、9%が「有り」と答えた。昨年4月の8%から微増した。非メーカー系の企業は昨年の10%から14%に増加。あいさつの電話、手紙や会社案内、自社製品の送付、保護者向け説明会や本社見学会の開催、家庭訪問などをしていた。松岡仁主任研究員は「就職しやすい年は親も強気になる。今年は『オヤカク』がもっと増えるかもしれない」と予想する。(貞国聖子、石山英明)