台湾の外交部で日本側に抗議した後、記者団の取材に応じる林永楽・外交部長=29日、台北、鵜飼啓撮影
台湾の海上保安庁に当たる海岸巡防署は29日、日本の沖ノ鳥島近海での台湾漁民の操業を保護するため、巡視船などを派遣すると発表した。台湾は沖ノ鳥島を「岩」と断定し、日本が排他的経済水域(EEZ)を設けるのは不法だとの主張を強めている。海域の警備に当たる日本側と衝突する恐れが出てきた。
海岸巡防署によると、派遣するのは1千トン級の巡視船1隻と漁業署(水産庁に相当)の訓練船1隻。5月1日に南部・高雄を出港し、「沖ノ鳥礁付近の公海」で任務に当たる。日本は沖ノ鳥島に沿岸から200カイリ(約370キロ)まで資源開発の権利があるEEZを設けているが、台湾は沿岸から12カイリの領海外は「公海」と主張。EEZ内で活動する見通しだ。
EEZで操業した台湾漁船の船長が海上保安庁に無許可操業の疑いで逮捕され、台湾では対日強硬の世論が過熱。台湾外交部の林永楽・外交部長は29日、日本の大使に当たる窓口機関・交流協会台北事務所の沼田幹夫代表を呼び、「日本は公海での漁業の自由を侵犯している」と抗議した。沼田氏は「沖ノ鳥島は国連海洋法条約で島としての地位が確立している」と反論し、冷静な対応を求めた。
ただ、台湾メディアによると、馬英九(マーインチウ)総統はこの日、「日本政府はこれ以上詭弁(きべん)を弄(ろう)するべきではない」と批判。交渉で打開できなければ国際仲裁に持ち込むことを検討するとした。総統府は「日本がどれだけ不満を持とうと、島ではなく岩だという客観的事実は変えられない」との報道官談話も出した。
また、台湾の野党・民進党は「日台間で合意できるまで台湾漁民を取り締まらないよう、日本に自制を求める」と表明。立法院(国会)では与野党が日本を強く非難するなどとした共同声明を採択した。(台北=鵜飼啓)