店のカウンターで靴を磨く佐藤我久さん=名古屋市中村区名駅5丁目
靴磨き職人として起業した若者が、名古屋にいる。野球に打ち込んだ中学・高校時代にスパイク磨きに夢中になり、大学時代には全国の駅前の路上で腕を磨いてきた。この春、大学を卒業し、昨秋開店した自分の店に専念している。
クリーム色の明かりに照らされたワイングラスがつり下がるカウンターで、佐藤我久(がく)さん(22)が背筋を正して革靴と向き合っていた。名古屋駅近くの老舗洋品店の一角を借りて昨年10月にオープンした「GAKUPLUS(ガクプラス)」。客はコーヒーや紅茶を楽しみながら、磨き上がるのを待つ。
靴磨きとの出会いは中学時代だった。野球部の練習後、泥だらけになったスパイクを磨くことが、一番の楽しみだった。愛着が湧き、見えない力をくれる気がしたからだ。
強豪校に進んだ高校では試合に出る機会は少なかったが、「道具を大事にしているから」と試合に抜擢(ばってき)されたこともあった。仲間の靴選びも手伝った。俊足を武器にする選手には軽いものを、体格の良い強打者にはひざや腰に負担がかかりにくいモデルを薦めた。
スパイクを扱う靴メーカー就職を目指して、故郷の北海道を出て愛知県内の大学に進学。「靴のことを何でも知りたい」と靴店でアルバイトをして学ぶうち、「もっと色んな靴を見たい」と路上での靴磨きを思いついた。2年生の冬、「お代はお気持ちで」と書いた段ボールを掲げ、エプロン姿で名古屋市内の駅前に立った。