EU離脱を訴える欧州議員に話を聴く遠藤乾教授=英東部グランサム、吉田美智子撮影
英国の欧州連合(EU)からの離脱を問う23日の国民投票。いよいよ投開票日を迎える。英国で今、何が起きているのか。長年にわたって英国とEUの関係に携わってきた遠藤乾・北海道大教授と、投票を前に現地で探った。
■離脱派「規制でがんじがらめ」
18日午前、イベントでにぎわう英東部グランサムの中央通り。近くでパンを売っていた20代の男性に遠藤さんが声をかけ、投票に行くか尋ねた。
男性は「離脱に入れる」と言う。遠藤さんが「若い人は残留を支持するんじゃないの?」と聞き返すと「友達もみんな離脱だよ」。
グランサムはサッチャー元首相の生誕地。遠藤さんが訪れたかった町の一つだ。サッチャー氏は、EUの前身の欧州共同体(EC)からの離脱を問うた1975年の国民投票で、野党・保守党党首として残留を支持した。この一帯の残留支持票は7割を超えた。
だがサッチャー氏はその後、統合を深めるECへの対決姿勢を鮮明にした。それに呼応するように、この地域も全英で有数のEU懐疑派が多い地域になった。
遠藤さんは「離脱派が大きなうねりとなったのは、保守党の『心臓部』がEU離脱に転じたことが大きい」とみている。
その理由を探ろうと、「サッチャー精神!」を合言葉に、EU離脱を呼びかける人たちに会った。
メンバーは、白髪の交じる高齢者が目立つ。
「すっかりだまされた」。家具製造会社のマリエッタ・キング社長(69)は憤る。前回75年の国民投票の際は「自由市場への参入は英国の国益になる」と考えた。だが「実際は、EUが貿易や農業などあらゆる分野の規制で英国をがんじがらめにした」という。そして、その規制について「決められるのは、EU本部があるブリュッセルでロビー活動ができる大企業の意向だけ。中小企業や庶民は不利益を被っている」と不満を口にした。
「私たちは英国の未来のために、主権を取り戻す。今回の投票は、かつての誤った選択を改めるチャンスなのです」。隣にいた初老の男性もうなずいた。
遠藤さんは「確かに、前回の国民投票時とは比較にならないほどEUの介入は増えた。自国のことは自分たちで決めたいといういらだちは理解できる」と話す。一方で「グローバル化が急速に進行する世界で、EU全体でまとまることで各国の国益を守り、国際的な影響力を行使できるという恩恵に気づけていないのでは」と疑問を呈した。