友達と違って、ずっと投票できないのかな――。18歳以上が投票できるようになった参院選を複雑な思いでみる若者がいる。千葉県で生まれ育った高校3年の少年(17)は親が不法滞在の外国人で、在留資格がない。「いつか日本国籍を取って投票したい」と話す。
特集:2016参院選
朝日・東大谷口研究室共同調査
特集:18歳選挙権
日本に出稼ぎに来たフィリピン人の両親の間に生まれた。父の記憶はない。母は幼い時に「すぐに帰ってくるから」と言い残して去った。同居していたフィリピン人女性(60)が、義母として育ててくれた。
義母はバブル時代に短期滞在の観光ビザで来日。2007年に日本人男性と結婚した。少年は男性と養子縁組をし、日本名になった。だが、義母も少年も在留資格は得られず、身柄の拘束を一時的に解かれる「仮放免」のままだった。小4の夏、義父は病死。仮放免中は就労が禁じられており、2人は友人らの支援で暮らすようになった。
義母は日本語の読み書きができず、自由研究も宿題も一人でやった。社会のことを知るため、テレビのニュースは小1から朝と夜に欠かさず見た。高校のサッカー部ではレギュラーとして活躍する。「一度きりの高校生活だから」。高2の秋、生徒会役員選挙に立候補し、当選した。
校則の見直し、被災地支援の募金、文化祭……。全校生徒のために働く生徒会は楽しい。一方で、現実の政治家には幻滅も感じる。国会での居眠りも政治資金での私物購入も「生徒会では考えられない。国民の代表としておかしい」。
でも、自分は日本国民ではなく、選挙権も得られない。学校には18歳の同級生もいるが、参院選に「興味がない」と公言する人も。「チャンスを無駄にしないで」と言いたいと思う。
法務省の統計によると、不法残留などで退去強制令書を発布された仮放免者は14年末に約3400人。少年のように日本で生まれ育った子どもも含まれる。非正規滞在の外国人を支援するNPO法人「APFS」によると、法相が裁量で出す在留特別許可を得た後に、長年かけて永住権を取得した人もいる。
少年は自分もそうなって、将来は日本人になりたいと願う。「僕にとっては祖国も、これから住むのも日本。いつか日本国籍を取り、選挙で投票したい」(伊東和貴)