東京都知事選候補者の街頭演説に集まった支持者ら=14日午前10時39分、東京都内、仙波理撮影
子育てや介護、政治とカネ、五輪……。新しい都知事に、有権者は何を期待するのか。
特集:2016東京都知事選
杉並区の会社員清川美花さん(35)は、保育園探しに苦労し続けてきた。長男(5)の時は、認可外保育所、遠方の認可保育所を経て、この4月からようやく近所の認可保育所に。次男(1)は認可保育所には入れず、区が緊急対策として設けた保育室に通う。
切に望むのは、保育士の数や園庭の広さなど、認可保育所の基準を満たした園が増えることだ。「働いているかどうかに関わらず、希望する人が預けられるようにしてほしい。小学校のように、学区内の子どもの数だけ定員を確保し、近くに通えるようにしては」
育児負担が女性に偏っていることも気になる。「男性の育児休業取得を推進する仕組みを、都が率先して作ってほしい」と話した。
13日夜。足立区で一人暮らしの坂本康夫さん(63)は大型ディスカウント店で食品などを買っていた。清掃会社の深夜パートで生計を立て、日々の買い物は近所の安い店を回る。「やりくりしながら暮らす我々が納めた税金なのに、あんな使い方は許せない」
怒りの矛先は舛添要一前知事だ。医療法人「徳洲会」グループから5千万円を受け取った猪瀬直樹元知事より、税金も含んだ政治資金を公私混同して使った舛添氏への怒りが大きい。
今回の都知事選は「クリーンで正直な人」を選ぶつもりだ。新知事には「税金はちゃんと使うべきところに使ってほしい」。説明が不十分なまま辞任した舛添氏の疑惑についても、解明を期待しているという。
■五輪、良い遺産が残るように
「終了後もここでやってよかった、と思える五輪にしてほしい」。新国立競技場近くの千駄ケ谷大通り商店街振興組合で理事を務める大谷英利さん(54)=渋谷区=はそう期待する。
1964年の東京五輪の記憶はほとんどないが、家族や近所の人は折に触れ、「沿道でマラソンのアベベ選手を見たね」「サッカーの試合を見に行ったよな」などと思い出を語る。
2020年の五輪に向けては競技場だけでなくエンブレムが白紙撤回され、知事の辞職が続いた。「どれだけ立派な競技場ができたかよりも、自分がどう五輪に関わったかのほうが心に残る。建設費は節約しつつ、子どもを観戦に招待するなど、良い遺産が残るようにしてほしい」
「知事になる人には介護の現場で、生の声を聞いてほしい」。介護のために離職を経験した葛飾区の渡辺紀夫さん(51)は訴える。
契約社員として働きながら、認知症と腎不全の父親を介護した。「要介護5」。介護休業の取得を希望したが、「うちでは認められない」と断られ、13年に退職した。父は翌年亡くなった。今は食品工場でアルバイトとして働く。
前回は、「認知症の母親を遠距離介護した」という舛添氏に投票した。「介護に携わった人なら」と期待を寄せた。しかし、任期途中に去った。
「介護の需要はどんどん増えていく。行政だけじゃ支えきれない。家族や地域も含めて、介護に携わる人たちを支援してほしい」
「客足は40年前の10分の1だよ」。東久留米市の団地近くの商店街で鶏肉店を営む保谷毅さん(73)=西東京市=はため息をつく。団地は空き部屋が目立ち、大型店にも客を奪われた。
「子どもの数が減っているから、から揚げなどのために買う肉の量も減る。とにかく、経済を元気にしてもらわなくちゃ」。家庭の消費を増やすために、子どもの教育費の無償化や税金の引き下げを実現させてほしいと願う。
25年ほど前から赤字が続き、所有するアパートの家賃収入でやりくりしている。周りは、シャッターを下ろす店が増えている。「出生率が高くて、経済に勢いがある海外の先進地に学んでほしいね」と新知事に希望を託す。