ギニアビサウ代表のリマ=6日、ブラジル・リオデジャネイロ、竹花徹朗撮影
■タシアナ・リマ(ギニアビサウ・柔道)
リオオリンピック
柔道の日程・記録
ブラジル北東部ペルナンブコ州で生まれたタシアナ・リマは、実父の顔を知らずに育った。初めて会ったのは4年前。西アフリカの小国ギニアビサウの人だった。
ブラジルに留学していた実父が故郷に帰っている間に、妊娠していた母との音信が途絶えた。母の一家が引っ越したためだったという。養父に育てられたリマは2007年、思い切って母に実父の名前を聞いた。「グーグルで検索したら、見つかった。ギニアビサウの水産大臣だった」
12年末にアフリカを訪れ、顔を合わせた。実父は兄弟を呼び寄せてくれ、一緒に年を越した。「私にとって、生涯で一番の出来事だった」。彼女は思った。「こんな出会いは偶然ではないはず。何か恩返しがしたい」。13年に国籍を変更し、アフリカ選手権で今年まで4連覇。力をつけて五輪出場を勝ち取った。
普段はポルトガルで練習しているが、ギニアビサウも頻繁に訪れる。「畳はなく、あるのはレスリングのマットだけ。そこで子供たちと一緒に練習するけど、彼らの柔道着もない」。九州とほぼ同じ大きさで、人口約170万人の貧しい国だ。それでも「自分の家のように感じる」という。
6日の試合は初戦でカザフスタン選手と対戦した。技ありを奪ってリードしたものの追いつかれ、延長の末に逆転負けした。「残念だけど、持っているものはすべて出し切った」。悔し涙を流しながらも、納得した表情で言った。
「これまでギニアビサウの名前は認識されていなかったけど、やっと柔道の世界で少し知られるようになった」。実父の母国の代表として戦ったことが誇らしい。この小さな国に競技が広まり、自分に続く柔道家が出てくることが、32歳のリマの願いだ。(柴田真宏)