友人と初めてパラリンピックの観戦に訪れたカルラ・ピントさん(左)。「私ができないことを簡単にやってのけていた」
これがサンバの国の熱気なのでしょうか。18日夜(日本時間19日朝)に閉会式が開かれたリオデジャネイロ・パラリンピック。観客は競技場で連日、熱い声援をおくりました。サッカーの試合でもないのになぜ? 会場を訪れたブラジル人に話を聞くと、ただのお祭り騒ぎではない、意外な顔が見えてきました。
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開会式と違って閉会式はあらかじめ選手たちが会場に集まってからのスタート。各国選手団に交ざり、ブラジル選手団が姿を見せると、会場からは大きな拍手や歓声が上がりました。
開会式前日の17日、陸上競技のスタジアムは沸きに沸いていました。男子走り幅跳び(切断など)のマルクス・レーム選手が8メートル21のパラ新記録を打ち出すと、観客は総立ちに。カルラ・モリナリさん(49)は「彼の大ファン。五輪も見ましたが、一番のお目当てはこの競技」と興奮気味に話していました。カルラさんにとって、五輪もパラリンピックも同列にあるそうです。
当初、チケットの売り上げ低迷が心配されていましたが、最終的には総数250万枚中、約210万枚が売れ、史上最多だったロンドン大会に次ぐ販売枚数になりました。陸上のようなメジャー競技だけでなく、マイナー競技の会場にも多くの観客が訪れていました。例えばボッチャ。日本勢初の銀メダルでにわかに注目されつつあるボッチャですが、ブラジルでもマイナー競技のひとつ。それでもブラジル選手が好プレーを決めると、観客は国旗を振り大声援で応えました。
「ボッチャって何なのと思い、ネットで調べたらビー玉遊びに似ていた」。友達を誘ってやってきた大学生のカルラ・ピントさん(25)。話を聞いた日は車いすテニスを観戦しましたが、ボッチャのチケットも購入したそうです。パラに興味を持ったきっかけは、授業で障害者スポーツについて学んだから。「ブラジル人はスポーツが大好き。私のできないことを簡単にやってのける。同じ人間として敬意を払うべきだわ」。なかなかまじめな回答が返ってきました。
日陰で休んでいたカップルは、わざわざ仕事を休んで「パラリンピック・デート」に訪れました。「絶対に見たいと思っていたら、チケットが彼の職場でたまたま手に入って。サッカーはいつでも行けるけど、パラリンピックは今しかないでしょ」。ガブリエーレ・ドス・サントスさん(21)が来場した理由を教えてくれました。この日は車いすテニスを観戦。初めて見る競技でしたが、劣勢だったスペイン選手を拍手で応援しました。「確かにブラジル人はお祭り騒ぎが好きだけど、それよりも頑張っている人の味方になってあげたい気持ちが強い。体が不自由ならば人一倍頑張っているはず。1人の選手として応援しているんです」。
「ただ、騒ぎたいから」「チケットがもらえたから何となく」――。なんとなく、そんな答えを予想していましたが、良い意味で裏切られました。10人以上に話を聞きましたが、「頑張る姿を見たかった」(15歳・男性)、「選手が自分の壁をどんどん超えていくところが魅力」(52歳・女性)、「実際に足を運び、一人ひとりに声を届けるのが大切だと思った」(25歳・男性)といった意見が続きました。
次回の2020年には東京大会で世界のパラ・アスリートを迎えます。もしも、会場がしーんと静まりかえっていたら何とも寂しい、と思っていたら……
「ブラジル人を何人か観客席に交ぜれば大丈夫!」。ステファニー・ペレスさん(20)がにっこり笑って提案してくれました。熱狂の渦に包まれたリオ・パラリンピック。声援の数だけ、パラリンピック選手たちへの熱い思いがありました。(向井宏樹)