閉廷後に取材に応じる肥後勇さんの長男の剛さん=大阪市北区
技能がないのに車を運転して死亡事故を起こしたとして、全国で初適用となった自動車運転死傷処罰法の危険運転致死(未熟運転)などの罪に問われた大阪府豊中市の少年(17)の2度目の裁判員裁判が17日、大阪地裁で始まった。焦点は刑事罰を科すか、更生のため保護処分とするかで、24日に判断が下される。
少年は2015年8月、兵庫県尼崎市の路上で、ワゴン車を運転。自転車の肥後勇さん(当時80)をはね、そのまま逃げた罪で起訴された。起訴内容について「間違いない」と認めている。
事件をめぐっては、大阪地裁の裁判員裁判が昨年8月、「保護処分が相当」として大阪家裁への移送を決定。しかし家裁は「事件は悪質」として再び検察官送致(逆送)とし、今回、2度目の裁判員裁判が開かれる異例の事態となった。
検察官は冒頭陳述で、悪質性などから刑事処分を科すのが原則で、保護処分は「特段の事情」がある場合と強調。過去の非行歴に触れ、「刑事処分が必要」と裁判員に訴えた。
一方、弁護側は、2度目の検察官送致を「裁判員裁判の判断を不当に覆した」と批判し、起訴の取り消しを主張。少年が反省していることや、生育環境などを踏まえ、「内面を改善することを目的とした処分が必要」として家裁による保護処分(少年院送致)が相当と訴えた。
■遺族が出廷「父に償いを」
肥後勇さんの長男剛さん(51)はこの日、検察側証人として出廷し、時折、声を震わせながら父への思いを語った。
頑固でまじめ一筋、印刷会社を定年まで勤め上げ、子や孫に優しかった勇さん。80歳だったが体は丈夫で、事件当日は病院で健康診断を受けた帰りだった。「好きな高校野球の試合を見ようと、一緒だった母よりちょっと早く進んでいたんだと思う」。現場は自宅まで約300メートル。駆けつけた剛さんに、母は泣いて「お父さん、だめだったよ」と告げた。
事件の3カ月後、剛さんの長女の結婚式があった。「おめでたい日なので絶対泣かないつもりだった」。しかしバージンロードで遺影が目に入ると、式を楽しみにしていた勇さんの姿が思い浮かび、号泣した。
法廷では厳罰を求める一方で、こうも語った。「過ちと償い、社会的責任を理解させながら、この機会に必ず更生をさせてほしい。それが父への最大の償いだと信じている」(釆澤嘉高)
■未熟運転の罪に問われた少年をめぐる経緯
〈2015年〉
8月 兵庫県尼崎市の市道で事故発生。自転車の男性(当時80)をひいて死亡させ、ひき逃げした容疑で逮捕
9月 大阪家裁が大阪地検への送致(逆送)を決定
10月 大阪地検が自動車運転死傷処罰法の危険運転致死(未熟運転)罪で起訴。適用は死亡事故では全国初
〈2016年〉
8月 大阪地裁の裁判員裁判が大阪家裁へ移送すると決定(求刑は懲役4年以上8年以下の不定期刑)
大阪家裁が再び大阪地検に送致(逆送)を決定