会見で笑顔を見せる稀勢の里=23日午後6時17分、東京都江戸川区、関田航撮影
早くから稀勢の里に注目し、時に辛口のエールを送ってきた人がいる。元横綱審議委員で脚本家の内館牧子さん。大願を成就させた関取への思いをつづってもらった。
稀勢の里の横綱昇進、横審が推挙 25日に正式誕生へ
特集:稀勢の里、横綱昇進へ
裏切られても裏切られても、私は稀勢の里が好きだった。初優勝や綱とりや、それらの機会が訪れるたびに新聞社から電話が入る。
「実現したら原稿を下さい。千秋楽まで見て、翌日が締め切りですが、何とかぜひ」
私はそのたびに答える。
「稀勢の里なら、何を後回しにしても書きますから」
やがて、千秋楽を待たずに連絡がある。
「今場所はもうダメですね。原稿、書いて頂く必要がなくなりました」
これを繰り返す間、照ノ富士、琴奨菊、豪栄道の3大関が先に賜杯(しはい)を抱き、横綱昇進への期待が大きくなった。稀勢の里だけが優勝経験のない大関となっていた。当初、貴乃花に次ぐ史上2位での出世街道を走ってきただけに、自分は何をやっているのかと苦しんだであろうし、期待に応えられない情けなさにも泣いただろう。
そんな稀勢の里を、私はずっと「バスがダメなら飛行機があるさ」と思って見ていた。
私が稀勢の里の年齢の頃、何も…